撮影:本社写真部
1980年代に韓国で生まれた一人の女性が、普通に生きていくなかでぶつかる差別や困難を描いた韓国のベストセラー小説、『82年生まれ、キム・ジヨン』(チョ・ナムジュ著)が、日本でも話題になっています。女性であるがゆえに生きづらさを覚える様子が共感を呼び、訳書は発売から3ヵ月で9万部を突破。この小説が両国で多くの読者を得た背景にあるもの、そしてこれからの社会のあり方とは。女性の生き方を見つめてきた酒井順子さん、ジェーン・スーさん、韓国のフェミニズム書『私たちにはことばが必要だ フェミニストは黙らない』の共訳者で韓国の文学や社会情勢に詳しい翻訳家のすんみさんが語り合あった貴重な対談、後編です。

〈前編はこちら

自覚がない人たちに差別を認識させる大変さ

酒井 日本にはまだまだ意識の壁がある。特に地方では強く残っていますよね。19年3月8日の『朝日新聞』に面白い記事があったので持ってきました。「男女均等 政治では?」という記事で、女性の市議が誕生したことがない鹿児島県垂水(たるみず)市議会の議長のインタビューが載っているんですけど。

スー 「昨年、候補者男女均等法が成立しましたが、私としては、昔から男女平等だと思うのに、女性の背中を押そうという法律ができることは不思議です」って。わぁ、すごい発言ですね!

酒井 この方は、「『男尊女卑がある』とか『封建的な土地柄だ』とか指摘を受けますが、そんなことは絶対にない。たまたま誕生していないだけで、女性の進出を阻む風土があると言われるのは悲しいです」と断言されていて……。

すんみ 19年現在の記事ですよね?

酒井 ある種の感動さえ覚えます。

スー こういう方の下で働くことになると思うと、鹿児島の女性は立候補したくないでしょうね。話が通じなくて苦労するだけ。

酒井 子どもの頃からこういった環境に育つと、女性も「男尊女子*」になりやすいでしょうし。

スー 女性差別や格差はれっきとして残っているのに、どの社会でも、それに無自覚な人たちが権限を持っている。『私たちには~』にも、「女性差別の問題はそもそもない」と言ってくる人にどう対応するかが書かれていたじゃないですか。特権を持っていることに自覚がない人たちに、差別があると認識させるのは大変。考えただけで、どっと疲れますね。すごいカロリーを使う……。

すんみ 『私たちには~』では、理解してもらえない人、説明をしたいと思えない人には、話さなくていいというアドバイスがあって。それは私にとって大きな発見でした。理解してもらえない人に話すより、その労力を使ってわかり合える人たちと話し合い、手をいで輪が大きくなっていくほうがいいと。

スー 確かに。でもそこは世代間の違いがあるかもしれません。若い子たちには古い価値観の人とぶつかって嫌な思いをしてほしくないけれど、私たちは自分の親世代のこうした人たちとやっぱり話さなくちゃいけないとは思います。

*酒井さんによる造語。女性は男性よりも下であると思っている女性の意