憧れや楽しさがセットじゃないと変わらない

酒井 ただ今は、巧妙に差別が隠されているところもありますよね。職場に女性のお尻を触る上司はいないけれど、女性が出世するかといったら、そうではない。すーっと生きていると気づかない問題はたくさんあります。東京医科大学の不正入試問題しかり、水面下にずっと隠されていた女性差別はたくさんあるのでは。

スー 日本だと、フェミニズムがまだ“学問”なんですよね。現実のことじゃなくて。言葉が難しいから距離をとる人が多いのかなと思います。その点『キム・ジヨン』は小説として、一般の人にわかりやすい形で広がったのが素晴らしいと思いました。

『82年生まれ、キム・ジヨン』チョ・ナムジュ著 斎藤真理子・訳 筑摩書房

すんみ 韓国では、ほかにもたくさんのフェミニズム本が流行っています。どれも日常的な言葉で差別を描いているから、わかりやすいんです。一方で「脱コルセット」のように、以前はフェミニズム用語だった言葉もだんだん普通に使われるようになりました。社会が変われば言葉も変わる、と思っています。こういう本を読んで、「これが差別だ」ということを、女性にも男性にも気づいてほしいなと思います。

スー 男女の立場が入れ替わった世界を描いた、『軽い男じゃないのよ』というフランス映画があるんですよ。女性は社内に男性が少ないことを問題視するくせに解決する気はないとか、女性の機嫌を損ねると仕事がなくなるとか、“女尊男卑”の世界。映画でも本でも、疑似体験でいいからおかしさに気づくのは大事。そこから自分の態度を決めることができるから。ここが間違っていて、こう変わるべきだと若い人たちが気づいたら、先は明るいですよ。

酒井 今後、韓国と日本の若い人たちで、フェミニズムの新しいムーブメントが起きるかもしれないですね。

スー 人は、憧れだったり楽しさだったりがセットじゃないと変わらない。日本の若い子たちが、『キム・ジヨン』や『私たちには~』などを読んで衝撃を受けて、韓国のフェミニストたちはなんか楽しそうにやっているなって、また衝撃を受ける。最初はファッションでもいいからフェミニズムを身にまとって、身近なものにしていってほしい。そして走っていってほしいな、光の差すほうへ。若い世代には、嫌な思いはしてほしくないんですよ、本当に。