亀廣永 したたり

夏の京都の風物詩、
祇園祭ゆかりの涼菓。
縁起の良い菊花の
露のしたたるさまを、
琥珀色の寒天で表現

祇園祭で通りを巡行する山鉾のひとつである菊水鉾(きくすいほこ)の茶席用につくられたのが始まりで、かつて菊水鉾の町内にあった金剛能楽堂の菊水の井戸にちなみます。また菊水鉾は、菊の露を飲んで不老不死となる童子を描いた能楽『菊慈童(きくじどう)』を題材にしていて、「したたり」の名は延命をもたらす露をもあらわすめでたい名前なのです。

創案されてから約五十年、今も菊水鉾の茶席の菓子といえばこのしたたり。菓子が生まれた当時は、黒糖を用いた菓子は珍しかったそうですが、ザラメや和三盆、水飴などの糖類も加えることで、一見シンプルに見えながらも複雑な味わいとなっています。寒天の適度な固さを感じさせながら、口の中でほどけるように溶けるさまはまさに甘露。今年は残念ながら祇園祭の山鉾巡行は中止となりましたが、七月の京都の代表的な涼菓の一つであることは間違いありません。冷やしてお召し上りを。