仙台文学館所蔵の「四捨五入殺人事件」(1975年)のプロット

いよいよご執筆開始か…?

やきもきしていると、なんとか下準備ができたようだ。いよいよご執筆開始かと思いきや、井上さんは「プロット」をおもむろに書きはじめる。

これは、大判の原稿用紙を横につないでいったもので、勧進帳のように次々にめくって見るようになっている。井上さん特有の丸文字で話の流れに沿ってメモ書きがあり、要所要所には地図や旅館の間取りなどがちりばめられている。今回、「参考に」とをコピーしていただいたのだが、じっくり読んでいくと、なかなか面白い。

「四捨五入殺人事件」の場合、例えば、講演会のもう一人の講師である漫画家の立川強一先生は、市の観光課長とこけし工場見学に行っているので、60分ほど遅れてあとから来るとか、高屋旅館のおかみは第一回ミス東北だったとか、小説には出てこないエピソードを知ったり、文中にちりばめられた情報を集約して把握することもできる。

雑誌サイドが定めた締め切り日が過ぎても、未だに原稿の影も形も見えてこないことに担当編集者が焦り始める。すると、井上さんは慰めるように、プロットを見せてくれる。

このプロットは、部分的に展覧会などで公開されたことはあったが、一つの作品全部を眺めることができたのは初めてだった。これは、単なる下書きではなく、プロットそのものが一つの見事な作品である。いつか、どこかの出版社が『井上ひさしプロット文学全集』なるものを出版してくれるとうれしいな。