立ち止まると怖くなるから、開き直って
やがて、14年に入社したかおりさんの長女の提案でインテリア用品を作り始めた頃から、女性視線で板金を見直すように。もともと静岡で板金業が盛んなのは、徳川第三代将軍・家光の時代に浅間神社の造営のために金属加工の飾り職人が集められたため、という説がある。その中に、かんざし職人もいたらしい。
そこにヒントを得て、最新の板金技術を取り入れ、かんざし作りをスタート。「三代目板金屋」という自社ブランドを立ち上げたところ、三越のバイヤーの目にとまり、東京のデパートでも扱われるようになった。今では約80種の商品を生産販売している。
「自社ブランドを通して板金とはどういうものかを発信するうちに、既存事業にもいい影響が出てきました。板金に興味を持つ若い職人が育ち始めたのです」
仕事に打ち込むなかで、同性から「あなたは経営者の前に母親であり、女でしょう」という非難めいた言葉を浴び、悔しい思いをしたこともある。「男性だったら、『経営者の前に父親であり、男でしょう』とは言われませんよね」。
子供たちにはレトルト食品や冷凍食品で我慢してもらうことも多かったけれど、ちゃんと育ってくれた、と笑顔で語るかおりさん。長男は県外で製造業の修業中。長女はいまや頼もしい片腕だ。
「11年間、プレッシャーの連続でした。立ち止まると怖くなるから、開き直って、とにかく前を見よう。進みながら強くなっていけばいい、と思ってやってきました」
最近では県内の中小企業と連携し、精密医療機器も手掛けている。またオンラインショップも充実させ、「板金は素晴らしい技術なのだ」と、発信し続けたいという。