近所の人が訪れるやすだ農園の直売所。自宅のそばにあり、通りがかりの人が気軽に購入できる

『もう無理なんだよ』とは言いたくない

専業農家としてやっていくために加奈子さん夫婦が取り組んでいるのが、ビーツやスイスチャードなど、ちょっと珍しい野菜を育てることと、付加価値をつけて単価が多少高くても選んでもらえる野菜を作ること。そのために東京都エコファーマーや、JGAP(優良農業者の国際的な認証制度Good Agricultural Practiceの日本での認証)、東京都GAPなど、厳しい基準を設ける認証を取得している。

「JGAPは項目の条件が多いので、うちみたいな小規模多品目の農家にとっては大変ですが、2年かけて取得しました」。

この認証を活かして、取引先を増やすなど、目標はあるが、今はまだ加奈子さんの分の給料は出ない状態だ。そのため毎日畑仕事をしていても書類上は「無職」となり、3歳になる息子を保育園に預けることができなかった。父親からは、「おまえが最後の代になると思うよ」とも言われている。

「私もうっすら、そうかもと──。父に万が一のことがあり、これ以上畑が小さくなったらやっていけません。でも、祖父母や父が本当に手間をかけて慈しんできた畑ですし、できることなら子供に残したい。息子がもし私と同じように農家を継ぎたいといった時、『もう無理なんだよ』とは言いたくありません。ですから試行錯誤しながら、諦めずに、楽しく農業をやっています」

なんとか次の世代に農業をつなげるために、野菜の加工品にもチャレンジしてヒット作を出せないものか。今、加奈子さんの夢は、大きく広がっている。

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3人の跡継ぎ娘に共通するのは、柔軟な発想で、家業に新しい風を吹き込んでいる点だ。製造業や第一次産業の分野に、女性後継者たちの静かな情熱が傾けられ、作り手の気持ちが伝わる商品が生まれている。新鮮な視点で取り組む女性後継者たちの活躍を今後もいっそう、期待したい。
 


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