『ルポ 老人受刑者』著:斎藤充功

70歳以上の受刑者は10年前の4.8倍に増加

「刑務所は社会の縮図」とは、よく言われるところだ。その国が抱える社会問題や課題は、すぐに刑務所に表れる、というのである。

日本はいまや「超」高齢社会に突入し、高齢者人口の増加とともに、刑務所に収容される老人受刑者(65歳以上)も増加の一途をたどっている。特に顕著なのは70歳以上の受刑者が10年前に比べ4.8倍に増加、さらに驚くべきことに再入所率(再犯率)は7割を超えていることだ。高齢者の〈刑務所志願者〉〈刑務所リピーター〉が増えている、というのは噂では聞いていたが、こうも明確な数値で表されると深刻度は増す。なぜ彼らは刑務所に戻ってしまうのだろうか。

本書はそんな“漂流する老人受刑者”の過酷な現実と〈出所後の「生き方」「生活実態」について取材し、「社会と老人受刑者」の関わりを追った〉迫真のルポである。著者は30年以上も前からこの老人受刑者に関心を持ち、全国の刑務所取材はもとより、数多くの受刑者、出所者のインタビューを試みている。塀の外と内から老人受刑者の現実に迫っているのだ。

老人受刑者、再犯者が急増している理由として、経済格差の広がりと社会復帰の難しさ、出所後のサポート体制の不備などが挙げられる。もはや刑務所は「衣食住」を保証してくれる最後の居場所となり、その高齢者の再犯は〈生活困窮ー犯罪ー逮捕起訴ー裁判ー収監ー出所〉というスパイラル現象になってきた、というのである。

刑務所なんてもっとも遠い場、他人事だと思っていた。しかし、「下流老人」と経済格差が騒がれるようになった昨今、誰もが、この負のスパイラルに陥る危険性があることがリアルに伝わってくるのだ。

『ルポ 老人受刑者』

著◎斎藤充功
中央公論新社 1500円