迷える人間のひとり
昭和の時代の占星術本では「女の子の恋愛のかたちは金星が、タイプの男性のイメージは火星が示す」、あるいは「女性にとっての夫のイメージは太陽が、男性にとっての妻のイメージは月が表す」などといっていましたが、今そんなことを書いている占星術の教科書はまずないでしょう。年齢域の占星術も、実はジェンダー意識の変化とつながっていると僕はにらんでいます。「25歳を過ぎて金星的な(「女の子的な」)意識にしがみついていてはだめ。主体的な太陽を生きるようにしなさい」というメッセージは、ひと昔、ふた昔前なら女性が男性に仮託すべきとされていた太陽=主体性を自分自身で生きるようにしなさい、というもうひとつの規範意識と見ることもできるからです。
僕自身に関していえば、母は自力で事業を立ち上げ、シングルマザーとして子どもを育ててきたので、子どもの頃からジェンダーバイアスはあまりありませんでした。だから21世紀になっても「女性は選ばれる立場」と考えている人がいたのは、ちょっと驚きでした。
また、性自認は実に多種多様であり、恋愛対象は必ずしも異性とは限らないことが前提の時代において、「男」「女」という分け方自体がナンセンスです。僕も原稿を書く際、その点には気をつけていますし、若い占い師には「気をつけたほうがいいよ」とアドバイスすることも。なにより自分自身、10代のころ、「女の子のための」とされた占いに興味を持ったのが恥ずかしかったのですから。そして、ふとこう思うのです。
「あぁ、僕もついに後輩にアドバイスするような歳になったのか」と!
「日本特有の年齢域の考え方は、そのうち変わるのではないか」などと発言している一方で、自分はもう50代後半なのだと、年齢が気になったりもする。やはり僕も、迷える人間のひとりなのです。
※本稿は、『占い師の正体-人はなぜ占いに惹かれるのか』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
『占い師の正体-人はなぜ占いに惹かれるのか』(著:鏡リュウジ/中央公論新社)
「占いが当たる」とはいったいどういうことなのか?
占いは、科学や統計学なのか?
病か、それとも救いか?
人間にとって占いとはなにかを正面から問い、占いという謎めいた営みの魅力、魔力、その本質に迫る。





