
概要
旬なニュースの当事者を招き、その核心に迫る報道番組「深層NEWS」。読売新聞のベテラン記者で、コメンテーターを務める伊藤俊行編集委員と、調査研究本部の伊藤徹也主任研究員が、番組では伝えきれなかったニュースの深層に迫る。
世界各地で争いが絶えない。番組は8月の終戦記念日に合わせて、過去の戦争から現在の紛争まで、大きな戦火を経験した人たちや危機にいま直面している人たちの証言を幅広く紹介する特集を放送した。こうした惨禍を繰り返してはならない。私たちはそうした思いをどう受け継いでいくのか、そしてどう実現していくのか。出演した伊藤俊行編集委員に聞いた。
過去から未来受け継ぐ思い
外交力と国力を高める
「私たちに課せられた命題は『戦争は絶対に起こさない』ということだ。それを達成するために、日本は外交を駆使したり、国力を高めたりしなければならない」=福田康夫氏
「よその家庭には父親がいるのに、自分には父親がいない。『どうしてなんだろう』という気持ちだったことを思い出す。私は毎年8月15日を追悼の祈りの思いで過ごす」=古賀誠氏
伊藤徹番組は8月17日から5日連続で、シリーズ「目撃者の証言 戦争のリアル」を放送しました。戦闘が続くウクライナやイラン、さらに中国と向き合う台湾を取材しました。そこからは日常を取り戻したいという人々の切実な思いを感じました。
そして日本は81回目の終戦記念日を迎えました。19日の放送では、福田康夫・元首相にインタビューを行い、スタジオに古賀誠・元自民党幹事長を招きました。福田さんは90歳、古賀さんは86歳です。お二人とも政界を引退されましたが、幼少期に戦中と戦後の混乱を体験しました。古賀さんは戦争で父親を亡くされています。福田さんも古賀さんも「戦争を知らない政治家はその悲惨さを軽く考えているところがある」と口をそろえました。
伊藤俊福田さんへのインタビューは1時間に及びました。必ずしも体調は優れないご様子でしたが、休憩を挟みながら、声を振り絞るようにして話してくださいました。福田さんは終戦を疎開先の群馬で迎えます。福田さんは自分は当時軍国少年だったと振り返りながら、日本が軍国主義から民主主義へとガラリと変わる、その変わりように衝撃を受けたといいます。
福田さんは力による現状変更に脅かされる世界をどう見ているのか。この不安定な情勢を「新しい戦前」と表現する向きもあります。福田さんは「次に大きな戦争をやるとして、では一体どことどこがやるんですかね」と答えました。一見楽観的に聞こえますが、福田さんは人間の良識というべきものへの強い信頼を持っておられました。人間の良識とは、例えば法の支配の尊重と言い換えることができると思います。長い歴史を振り返ると、人間は争いを繰り返してきましたが、最後は何とか乗りこえてきました。
現代はテクノロジーが発達して、情報は瞬時に世界に行き渡ります。そうしたテクノロジーを前向きに捉えることができるなら、危機を回避する国際的な世論形成にも資するだろう。容易な道のりではありませんが、福田さんの言葉の端々からは未来に託す希望のようなものを感じました。
伊藤徹そのかじ取りを担う政治家の力量と責任が問われる局面が続いています。福田さんも古賀さんもアジア諸国との関係を重視してきました。高市首相の台湾有事に関する国会答弁以降、日中関係は冷え込んでいます。福田さんからは、難局にあたる政治リーダーへの期待とともに、厳しさを込めた助言がありました。
伊藤俊福田さんは外交と国力ということを強調されました。福田さんは「外交には相手があり、相手がどう考えるかということが半分あるんです。相手の心を打つようなことを言っていかなければならない」とおっしゃいました。一言ひと言の積み重ねが互いの信頼関係を築きます。一朝一夕には進みません。政治家は深謀遠慮を持って言葉を発してほしいという思いが伝わってきました。福田さんは「中国の姿勢にも責任がないわけではない」と指摘しました。複雑に絡み合う思惑や利害を解きほぐすことに国を挙げて向き合わないといけません。
福田さんは国力を高めるという言い方をされました。日本は防衛力の強化を進めています。福田さんはそれを否定しているわけではありません。防衛力は国力の大きな柱です。ただ、国力はそれだけではありません。防衛力に裏打ちされた外交力が問われます。さらにそれらの土台となる経済力が問われます。福田さんは「『外交を超えたら、あとは軍事力しかない』というのではお粗末な国ではないか」とおっしゃいました。日本が世界の中で役割を果たすためには、そして日本の国益を守るためには、国力を全体としてバランス良く高める必要がある。そうした助言に聞こえました。