「新選組を書こうと思い立ったときに、『中山道を通して歩かなきゃ』と考えたことがあるのです。」(浅田さん)

志士のように街道を歩きたい

浅田 玄蕃と乙次郎の旅は、津軽半島最北端で終わるんだけど、仙台から盛岡、さらに青森に入っていくにつれ、どんどん奥まっていく。そういう、曰く言い難い「奥の細道」感を味わうには、いい旅かもしれない。

 奥州街道は、実際に歩かれたのですか?

浅田 車で辿りました(笑)。でも、自分でそういう小説を書いてみるとあらためてわかるんだけど、昔の人は、目的地まで何十日、数ヵ月かけて平気で歩いたんだよね。

『流人道中記』上・下 浅田次郎、中央公論新社

 私は以前、テレビ番組の企画で、東海道を何度か歩いたことがあります。自分で企画書を書いたんですよ。ただ、撮影スケジュールや予算の関係で、どうしても行程が分割になってしまって。本当は、どこの街道でもいいから、歩き通してみたいんです。1回やったら、たとえば幕末の志士が何往復もしたときの思いとか、急いでもなかなか着かないやきもきした気持ちだとかが、実感できるんじゃないかという気がして。

浅田 僕も新選組を書こうと思い立ったときに、「中山道を通して歩かなきゃ」と考えたことがあるのです。浪士隊を募って京に上るときに、彼らは初めて中山道を行くわけですね。そして、道中で芹沢鴨をはじめとする血気盛んなメンバーが騒動を起こす。あのルートを歩いてみないことには、新選組はわからないんじゃないか、と。

 なるほど。

浅田 でも、実際には行けませんでした。当時の人は、1日に40~50km歩く健脚だったわけでしょう。僕らが真似したら、倍以上の日にちを覚悟しないと。それに、「新幹線なら2時間半で行ける」っていうアタマがあるからねえ。これが、けっこう冒険の妨げになる。(笑)。杏さんの挑戦からブームが起こったら面白そうだ。