「時代考証をしっかりやったうえで、『これが江戸時代の本当の美です』っていう映像を残したいのです。」(杏さん)

「江戸時代」はどこまで再現できる?

 浅田先生は、時代を遡れるとしたら、いつの時代のどこに行ってみたいですか?

浅田 これはもう、迷うことなく幕末の江戸です。

 京都ではなくて。

浅田 京もいいんだけど、江戸の白壁と黒い屋根の町並みに優るものはないんじゃないか、と思うのです。このごろ、幕末の古写真を収録した本が次々と出版されてるでしょう。ああいうのを見ると、パリやローマも霞むくらいの美しい町だったとわかる。

 古い日本の写真集は、私も大好きで、つい買ってしまいます。

浅田 東京人は派手好みとも言われるけれど、実は“ブラック&ホワイト”なんですよ。華美なのはむしろ関西で、これは豊臣秀吉と徳川家康の趣味の違いだというのが、僕の考えです。

 私には、街道歩きのほかにもうひとつ夢があって、一度でいいから、時代考証を完璧にした江戸の風情を、映像で撮ってみたいのです。2分でも、3分でもいいから。メイクや明かりなども、当時のものを再現したら……? きっと白粉もお歯黒も、行灯の光で見たら、すごく映えるんじゃないかと思うんですよ。

浅田 やっぱり新選組を題材にした『輪違屋糸里』を書くときに、現在も営業している京の置屋の輪違屋さんを取材したことがあります。

 あ、私も行きました。

浅田 舞妓さんの白塗りも、電灯の下で眺めるものじゃないというのが、よくわかるよね。金風にロウソクの明かりという設いに立ったら、まるで別人。所作といいお化粧といい、「ああ、こうやって見るものなんだな」と、心奪われた。

 そういった時代考証をしっかりやったうえで、「これが江戸時代の本当の美です」っていう映像を残したいのです。

浅田 それは、僕が真っ先に見てみたいな。その映画は、ある程度当時のことに造詣が深くて、なおかつ相当強い意思を持った人でないとできないでしょう。杏さんは、適任だと思う。ライフワークにして、やり遂げてほしいなあ。

 はい! いつか、ぜひやってみたいです。