後楽園ホールで行われた試合での1シーン。これが花さん(左)の得意技「ミサイル・キック」の美しいフォーム(写真提供:木村響子さん)

悔やむぐらいなら全力でできることを

中村 『テラスハウス』に出演したのもプロレスを盛り上げたい、知ってほしいという動機でした。しかし、花さんは番組の内容に関して心ない言葉をSNSに書かれるようになった――。

木村 はい。花が亡くなったあと私に、シングルマザーでさびしい思いをさせたとか、逆に厳しい“毒親”だったとか、なぜ親なのに助けてあげなかった、おまえのせいだろうとネットに書き込む人が、今もいっぱいいます。シングルマザーとその家族に対する偏見も強いですよね。

私のママ友もシングルマザーが多いんですけど、みんなすごく明るい。不幸だと一括りにして決めつけるとか、花へのバッシングもそうですけど、多様性を認めにくい世の中なのかな。子育てって正解がひとつじゃない。もしもシングルマザーの子がさびしい思いをするというのであれば、それを支えるシステムが必要じゃないのかなと思います。

中村 ネットでは、自分の価値観が絶対に正しいと信じてそうでない人を見つけては攻撃するという傾向が非常に強いです。悲しいことに花さんもその犠牲になりました。没後、ご友人などから花さんの評判は聞きましたか?

木村 とても優しかったと聞きました。気配りもできて、巡業バスの運転手さんがひとり車内でご飯を食べようとしたら、一緒に食べましょうと誘ったり、コーヒーを持っていったりしたとか。あと誰かが入院した際、コロナの影響でお見舞いに行けなかったからと退院する日にご自宅にお花を贈ったとか。花とは離れて暮らしていましたから知る機会もなかったんですけど、いつのまにそんな気遣いができるようになったのかと思いました。

中村 繊細な思いやりですね。つらい質問ですが、花さんがお亡くなりになって、あのときにこうしてあげたかったということはありますか。

木村 それはたくさんあるんですけど、今は悔やんでる時間がもったいないというか、悔やむぐらいなら全力でできることをやってあげたいなと思っていて……。ママ友がお通夜に来てくれたときに、「本当に全力で子育てがんばったよね」と言ってくれて、そうなのかと気づきました。自分なりにすべてを全力でやったということは唯一の事実だなと。それまでは「花を助けてあげられなかった」と自分を責める気持ちでいっぱいだったんですけど、ママ友の言葉を聞いて、誰に何を言われても、極力気にしないようにしています。

中村 今、花さんのために力を注いでいることはなんですか。

木村 花がなぜ誹謗中傷されなければならなかったのか、それがずっと頭から離れないんです。そのため『テラスハウス』やSNSの問題究明に取り組んでいて、BPO(放送倫理・番組向上機構)にかけあっています。『テラスハウス』に出演して本人は一所懸命がんばっていたと思うんですけど、ずっとしんどい、やめたいと漏らしていて、5月に限界になってしまった。番組との契約違反を恐れて細かい内容を周囲には話せないから、ひとりで抱え込んでしまったのだと思います。

中村 自民党は、木村花さんが亡くなったことを受け、誹謗中傷対策プロジェクトチームを発足しました。8月に響子さんはその会合に出席された。それにしても花さんへの誹謗中傷は度を越してひどいものでした。

木村 でも、SNSでの問題を罪に問うのは現実的にすごく難しいです。

中村 時間もお金もかかりますね。

木村 私はプロレス引退後にキッチンカーをやっていたんですが、花の名誉回復を最優先にして動いているため、仕事をする時間的、精神的余裕が今はありません。けれどこれだけはどうしてもと思って、名誉回復のための弁護士費用は、花の結婚資金にと私やおばあちゃんが貯めていたお金から工面しているんです。ほかにもnoteで記事の購読やサポートをしていだいたものも費用にあてています。若い人とかお金がない人、一番弱い立場の人が泣き寝入りするしかないってなると、今のままじゃ本当に駄目だなと思うのです。SNSが無法地帯であり続ければ、自分の大事な人がいつ被害者になってもおかしくない。絶対に、誰にも花と同じ目にあってほしくありません。