木村花さんの母・響子さん。最近、現役時代のアフロヘアに戻したのは「自分を奮い立たせるため」(撮影:本社写真部)

娘とリングで真剣勝負して

中村 花さんは2016年にWRESTLE-1(レッスルワン)の試合でデビュー。母子そろってプロレスラーというのはレアケースです。

木村 プロレスの世界は上下関係が厳しい。後輩が私を「木村さん」と呼んでいるのに、現場で花が「ねえママ」って言うのはおかしいじゃないですか。敬語を使わなきゃダメだと注意して以来、花は私を「木村さん」と呼んでいました。親に対して反抗的なときもあった花ですが、同じ世界に入ったらライバルですし、先輩後輩の関係でもある。他の子よりも厳しく接していたかもしれません。

中村 花さんのプロレスをどう思われましたか。

木村 花がデビューしたあと、メインで私とシングルマッチをやりました。けれど花は体ができていないので、私にはかなわない。その時気づいたんですが、私には経験や体力、精神力はありますが、一方で花は手足が長くて、若くて華がある。無限の可能性があります。私は本当にプロレスが好きだったので、花はこれからいっぱいプロレスができる、羨ましいな、と思いました。

中村 親子マッチの勝敗は?

木村 16年の8月7日、「はなの日」で、そのときすでに翌年1月の私の引退が決まっていました。けれど親子だから手加減していると観客に思われてはプロとはいえないので、容赦なく花を叩きのめしました。最後は「腕ひしぎ逆十字固め」で私の勝利。逆に私の引退試合のときに花がしかけてきたのは、私の得意技の「ビッグ・ブーツ」(十六文キック)。(笑)

中村 花さんの得意技はビッグ・ブーツ?

木村 いや、「ミサイル・キック」(飛び蹴り)ですかね。すごい華やかで、花がやるミサイルキックは本当によかったですね。

中村 強くなったなと思いましたか?

木村 というか、人間力があるなと感じました。プロレスラーの魅力ってさまざまだと思うんですが、本当に何かを伝えたい人には人間力とか発信力があるんです。何も考えずに試合をしている子と、何かを届けようとしている子は、一緒に試合をしていても全然違う。花にはそれがあったので、これはトップにいけるかも、と思いました。

中村 関係者に取材しましたが、将来確実にスターになる逸材だったと惜しむ声が圧倒的でした。

木村 試合後、プロレスではマイクパフォーマンスで観客を沸かせたりします。そのときも私が花に対して「リングの上でママもクソもあるか」と言うと、花は「てめえが引退するまでに絶対にぶっ潰してやるから」。これはアドリブなんですけど、アジテーションの応酬は簡単じゃない。お客さんに楽しんで見てもらうパフォーマンスですから、陰の努力や才能が必要です。

中村 花さんは人を魅了する才能があったんですね。

木村 若いとか、スタイルがいいとか、顔がかわいいとか、それだけだと若い頃だけで終わっちゃうんです。お客さんの記憶に残るのは、レスラーに本物の気持ちがある時。花はマイノリティーとして育ってきたので、人を勇気づけたいっていう気持ちが強かった。花が残した手紙には、「みんなのことを幸せにしたかった、勇気づけたかったけど、それができなかった」と書いてありました。自分がつらい思いや悲しい思いをしてきたぶん、プロレスで救われた部分があって、またプロレスへの愛情も強かったと思います。