左/昭和5年の9月に上京し、東京・世田谷代田の最初に借りた家の前で。2人ともお洒落に装って 右/裕而さんから金子さんへの手紙。赤いペンで音符やハートマークが描かれている

自分の本がきっかけとなった話でしたが、正式に朝ドラになると決まったときは、複雑な心境でしたね。なぜなら、うちの母は慎ましやかで控えめな女性でもなかったし、夫を陰で支えるような妻でもなかったから。僕の娘も「金子おばあさまは内助の功なんていっさいしなかったのに、どうやって朝ドラにするんだろう?」って(笑)。

僕自身も、どんなふうに描かれるのか、ドキドキしてますよ。でも、父や母の故郷の方々がすごく喜んでくれて、何よりも「震災復興」という意味で、このドラマが福島のみなさんを少しでも元気にできるなら、こんなに嬉しいことはない。それは父にとっても望むところではないかと思います。

朝ドラに取り上げられるきっかけとなった正裕さんの著書『君はるか 古関裕而と金子の恋』

口数が少なく、とても芯の強い人

ドラマの放映が始まってからは、僕も毎朝見ています。あたりまえのことですが、実際の両親とはだいぶ違うな、という印象(笑)。コミカルタッチの演出なので、父役の窪田正孝さんはかなりオーバーに感情表現をされますけど、実際の父はあまり感情を表に出す人ではありませんでした。

恥ずかしがり屋ではなかったものの、話をすること自体が苦手で、口数が少なくて。でも、とても芯の強い人。本番にも強く、大舞台でも決してあがったりはしなかった。なので今回のドラマの冒頭、東京オリンピックの開会式のシーンのように、逃げ出すほど緊張することはありえない。性格は穏やかで、僕や姉たちに対しても優しく、自宅で仕事中に、子どもたちが家の中で遊んで騒いでいても、まったく怒ったりはしなかった。母のほうは口うるさかったですけどね。(笑)

作曲は、もっぱら自宅の書斎で行っていたものの、家族がミシンをかける音や皿洗いの音など、「ホームノイズ」は気にしない。ただ、調子がはずれた音は気に障るようで、近所のお子さんが弾く下手なヴァイオリンの音などは、「邪魔になる」と嫌がっていましたね。

今でも覚えているのは、僕が小学生の頃、コップに水を入れて音階を作ってキンコンキンコン叩いていたら、2階から駆け下りてきて「うるさい」って引っぱたかれた。後にも先にも、父に手を上げられたのはそれ1度きりです。