8月28日、安倍首相が記者会見を開き、体調不良を理由に辞意を表明。連続在職日数で歴代最長を更新した直後のことだった 
専門家が独自の目線で選ぶ「時代を表すキーワード」。今回は、政治アナリストの伊藤惇夫さんが、「総理・総裁」について解説します。

今はたまたま2つを兼ねている状態

安倍晋三・前首相は、2つの肩書を持っていた。ひとつは「内閣総理大臣」で、もうひとつが「自民党総裁」だ。ちなみに「首相」という呼称は、マスコミが使うもの。総理と総裁、2つの肩書はセットのように思われがちだが、実はまったくの「別物」なのである。

自民党では、総裁に指名された人物が、国会での首班指名候補(総理候補)になることが慣例化している。その自民党は、戦後の政治史の大半で議席の過半数以上を占める第1党だったから、自民党総裁イコール総理大臣のイメージが定着しているが、これは「たまたま」そうなっているだけ。

つまり、総理大臣は国民が選んだ国会議員によって選ばれた「公(おおやけ)」の役職だが、総裁は自民党という一政党が、“勝手に”選んだ党首にすぎないともいえる。

だから、自民党総裁が自動的に総理の座に就くわけではない。過去には自民党から2人(大平正芳と福田赳夫両元総理)が総理候補として、国会での指名選挙で争ったことがあるし、自民党が野党に転落していた時期の総裁は総理になっていない。河野洋平元衆議院議長と谷垣禎一前自民党幹事長の2人がそれだ。

また、派閥が今よりずっと元気で、党内抗争が激しかった1980年代には、しばしば「総(理)総(裁)分離論」が浮上したこともある。対立するライバル同士で総理と総裁を分け合う、という妥協策だ。ただし、これが実現した例はない。

さて、新総理は、この2つの肩書をうまく使い分けることができるかどうか。