「その日、何を着て行こうか、誰と行こうか、そういうことを含めた体験が、『観に行く』『聴きに行く』ことで、そこにはやっぱり特別感があります。」(重松さん)

ネットを入り口に映画館や生の演劇へ

行定 コロナが招いた状況は、パラダイムシフト(価値観が劇的に変化すること)のひとつのきっかけになります。映画の鑑賞の仕方にしても、従来の方法にとらわれず、いろいろなアプローチがあっていい。一方で、もちろん映画館には映画館なりの楽しみ方、特別な場所としての価値があります。

重松 映画や演劇、コンサートは「観に行く」「聴きに行く」と言いますね。動詞が2つ入っている。情報としてだけならば「観る」「聴く」だけですむ。けれど、その日、何を着て行こうか、誰と行こうか、そういうことを含めた体験が、「観に行く」「聴きに行く」ことで、そこにはやっぱり特別感があります。

小泉 自粛期間中にAmazonプライム・ビデオやNetflixなどの配信サービスに加入したり、YouTubeを観た人は多いはず。最初はメジャー作品を観ていた人も、そのうちミニシアター系の映画や演劇が目にとまるかもしれません。そして、「こういう作品、文化もあるんだ」と新たな出会いが、映画館や劇場に足を運ぶきっかけにつながることもあります。

行定 大事なのは多様性。映画館は自分たちの視点で「これだ」というものを選択し、上映すればいいんです。メジャー作品が映画館でかかる時代じゃなくなる。そのなかで、言い方は悪いですが、淘汰されるものも出てくると思うんです。ともかく、コロナ前に戻るという発想は僕にはないなあ。

重松 行定監督のリモートムービー『きょうのできごと~』に好きなセリフがあります。「仮に、目の前の未来が真っ暗闇だとしても、俺たちは蛍光ペンで描き殴るしかない」。

行定 それを言ったのはMCアフロというミュージシャンで、MOROHAというグループのラッパーです。彼らの『革命』という歌に出てくる詞のスピリットのまま言ったセリフですね。

重松 「描き殴るしかない」、その「しかない」という言葉の根っこにある力強さみたいなものがいい。それを底力というんじゃないか。僕たちもそれぞれ自分のジャンルで底力を見せなきゃいけませんね。