「コロナ禍が続き、多くの人が頑張ることに疲れたと感じている。そんなときこそ、いい映画を観た、いい演劇に触れた、いい本を読んだ、ということが励ましになるはずです。」(小泉さん)(撮影:木村直軌)
10月1日から東京・本多劇場で「asatte FORCE」を展開する小泉今日子さん。
もともと予定していた公演は新型コロナウイルスの影響で無期限延期となりましたが、「今できることを発信したい」との思いから急遽企画したそうです。
そんな小泉さんが、4月の緊急事態宣言下でリモート映画をつくり配信した映画監督の行定勲さんと、7月末に語り合いました。ウィズコロナ時代、映画・演劇の作り手たちの思いは――。
司会は小説家の重松清さん。現在発売中の『婦人公論』10月13日号の掲載記事を、昨日配信した前編につづき後編をお届けします(構成=福永妙子 撮影=木村直軌)

<前編よりつづく

ジャンルを超えた横のつながりを

重松 「好きでやってるんだろう」という言われ方もしますが。

行定 たしかにその通りです。さっきの話の主演女優は、プロデューサーの「今度、絶対にまたやるから」の言葉に、「それを信じて、バイトします」と嬉しそうに答えたそうです。生活ができなくなることよりも、舞台に立つ、その場所を失ったことのほうがつらいんですよ。

重松 よって立つものがなくなる。

小泉 役者さんというのは有名無名にかかわらず、次の出演作が決まっている、撮影予定がある、それが明日への力。だから、プロデューサーとしてできるのは、次の約束なんですね。

重松 “明日〟を見せること。

小泉 そのためにも、基盤である演劇や映画という文化そのものを衰退させてはいけない。けれど、たとえばトークイベントで国の支援について触れたりすると、すごく叩かれます、「国にお金をちょうだいと言ってるよ、この人」と。

演劇やミニシアターのように、小さいけれども、誰かの心に響き、誰かを救うかもしれない文化というものを社会にもう少し認めてほしいという気持ちがあります。私自身は何を言われても平気。でも、お芝居や映画に情熱をもって頑張ろうとしている人たちには、その言葉は切ないですね。

行定 今、僕たちの仲間、先輩、後輩たちが声をあげて、小規模映画館を支援する「ミニシアター・エイド基金」や「セイブ・ザ・シネマ」という活動をしています。この世界で、上にいる人は何もしてくれないし、僕は縦のつながりはなくなっていいとさえ思っています。これからカナメとなるのは、裾野にいる人たちの横のつながりです。

小泉 「We Need Culture」というプロジェクトは、音楽、演劇、映画がジャンルの枠を超えてつながり、文化芸術の継続・復興のために立ち上げたものです。それぞれが「個」として自分のやりたいことに対し責任を持ちながら手をつないでいく、というのは私も考えていました。行定監督がおっしゃるように、「どれだけ横に仲間がいるか」というのが重要な時代になりつつあるように思います。

重松 お話をうかがっていて、ベンヤミンという歴史学者の言葉が浮かびました。「暗闇の中を歩くときに支えになるものは橋でも翼でもなく、友の足音である」。見えないけれど、一緒に歩いている仲間がいると思えば、それがいちばんの力になるのですね。

小泉 今、世界中が同じ状況にありますから、違う国の人たちともそういうつながりが生まれやすいかもしれません。