クビになったと友人に伝えられなくて

派遣切りについてパートナーと親には伝えたが、友達には話していない。いや、話せずにいる。好きな業界で働いていることや、派遣社員ながら収入も安定していることを誇りに思いながら日々を送っていた。友達に言えないのは、憐れみの目で見られたくないというプライドが邪魔をしているからだ。そのくせ、事実を隠していることへの罪悪感も押し寄せてきて、自尊心と絡み合い、時間が経つごとにどんどん複雑な心境になっていく。

ともに契約終了となった元同僚が、「子どもにクビになったと言えない。仕事を続けているフリをしてしまう」とLINEで正直な気持ちを明かしてくれた時、ああ、私だけではなかったのかと、少しホッとしたのを覚えている。

でも、私は彼女にすら「友達に隠している」と伝えられなかった。また、同時期に幼馴染みも他社で派遣切りにあっており相談を受けたのだが、「私も同じ状況だよ」の一言が言えず「なんとでもなるよ」と答えていた。真実を伝えられない自分のプライドの高さに、悲しいくらい嫌悪を覚えた。

この間、次なる勤務先探しという課題も突きつけられている。私は、有期雇用より正社員に近い無期雇用契約だ。休業手当もあり条件が整っている分、今回のように契約終了となっても可能な限りブランクを作らずに、別企業で働くのが約束事。ところが、そう簡単には進まない。

次の仕事を紹介され、面談に向けて話を進めていたのだが、緊急事態宣言を機にいったん取り下げられてしまった。その次に斡旋された求人もキャンセルに。元同僚たちも似たような状況で苦戦している。

自宅待機の日々が続き、生活は大きく変化した。今までパソコンに向かっていた早朝に散歩をするようになり、日記をつけるゆとりが生まれ、家族との会話も増え、皮肉にも金銭面を除けば暮らしは豊かになっている。桜、菜の花、藤と季節折々の花が、すぐ近所でリレーのように咲くことも今年初めて知った。ベランダで天体観測をし、月や星の動きを意識するようにもなった。

何の疑問も抱かず、ただひたすらに労働に明け暮れていた、これまでの私はいったいなんだったのだろう。自分は有能だと思い込み、路頭に迷うことはないと根拠のない自信を持っていた己が滑稽である。将来的な不安はないと言ったらになるが、ポッカリと空いたこの期間に自分を見つめ直すことができた。折を見て、友達に現状を伝えられたらと思うのだが、まだその勇気は出ない。


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