イラスト:タムラサチコ
60歳の定年後も老後の生活への不安から、仕事を求めてハローワークへと足を運ぶ筆者。しかし担当者に言われた言葉にカチンときて……(「読者体験手記」より)

前向きな気持ちに水を差す暴言に我を忘れて

40年間勤務した会社を60歳で退職した頃は、定年延長など男性の一部に許されているだけで、女性にはないに等しかった。それなりの退職金を支給されたが、老後のことを思うとやはりまだまだ働かなければ。毎日規則正しい生活をすることは健康のためにもなるし、少額でも収入があることは気持ちのうえでの余裕にがる。そんな前向きな気持ちでハローワークへ。

「いまどき20代でも働く場所がないのに、定年した人はなおさらです。それに、その歳で若い人とシフトの相談ができますか?」

年配の担当者に言われた言葉に、私は頭に血が上り、「あなただって定年後にここで再雇用されたのでは? 一度定年したから働けないってことはないでしょう!」と、大声を出してしまった。自分でも驚くような言動に、周囲の人もあ然としている。奥から上司らしき人が出てきて私の話を聞こうとするが、腹の虫が治まらない。

その日は一度帰ることにしたが、意地でも再就職してやると決意して、翌日もハローワークに出向いた。パソコンで求人企業を確認すると、条件として、パソコン入力ができること、運転免許があることなどが明記されているものが多い。私は40年間事務職で、簿記の資格も持っていない。

その後、ハローワークに通いながら、シルバー人材センターの講習を受け、ホームヘルパーの資格を取得した。でも、自分は介護の現場は向いていないのではないかと思い、足踏み状態が続く。そして、1年ほど経過した頃、花嫁介添えの求人が目に入った。もともと好きな着物を着る仕事で、人生の門出にお手伝いができるというのは魅力的だし、私の年齢でも大丈夫。運良くその仕事に就くことができた。

しかし、始まってみると学習しなければならないことばかり。ベテランの介添えさんに数回同行しながら現場を体験し、式場での動きを覚える。花嫁さんにはつかず離れず、言葉遣いや表情も誰に見られているかわからないから気を抜けない。それでも出席者の和やかな様子を見ると、自分も嬉しい気分になる。ある時、「最初から最後まで笑顔で付き添ってくださって、ありがとうございます」とお礼を言われてほっとしたこともあった。

一方、自分の若い頃とドレスも装飾品も違うので、扱い方がわからず苦心した。また、私は小柄なのでドレスの裾を肩にかけてもなお余ってしまったり、花嫁さんに手を添えようとしてもやっとのことで手が届くというありさまだったり。

やりがいのある仕事だったが、3年で辞めることにした。今思えば歳をいいわけにしていたのだが、不手際を注意されてもなかなか改善できないこともあり、このまま続けていていいのかどうか、不安になったのだ。