こんないけない夢を抱くのは自分だけと思いきや
ええ、そうです。妄想です。パート勤めの主婦には自分の自由になる貯金もありませんし、老後の年金も夫と2人でなんとか暮らせるくらいの額。娘は「将来、共働きで子どもができたら、二世帯住宅にして子育てを手伝って」などと虫のいいことを言います。
それに、日々の小さな衝突はあるにしろ夫婦仲は悪くないと思っているはずの夫は、私に「ひとり暮らし願望」があるとわかったら大いにショックを受けるでしょう。定年が近づいてきた最近になって、「老後は一緒に旅行がしたいね」などと言ってくることもありますから。
私も、「そうね、コロナが収まったらね」と返事はします。でも心の中には、無人島の小屋にボートで通う自分の姿がありありと思い浮かんでしまうのです。
PTAでも非難ごうごうでしたし、きっとこんないけない夢を抱くのは自分だけだろうと思っていました。ところが最近、トーベ・ヤンソンの作品を取り上げた読書会で知り合った女性2人から、「私も彼女の小屋暮らしに憧れていた」「独居生活のおばあさんの書いた本を見つけると、つい買ってしまう」と聞かされて、すっかり意気投合してしまったのです。
聞けば1人は、「夫がコロナ禍で在宅勤務になり、定年後はこの暮らしがずっと続くかと思ったらひとり暮らしの夢が再燃した」とのこと。もう1人は、「子どもに反抗されると、『お母さんは出て行きます!』という気持ちで引っ越し先をネットで探すのが趣味」で、お気に入りの物件をLINEで知らせてくれるようになりました。
タイニーハウスと呼ばれる、最小限の設備だけを備えた海外の極小住宅。車で移動できるトレーラーハウス。工場で作ったドームを据えつけるだけの家。面白い物件を探してきては、ああでもない、こうでもないと3人でLINEを交わすのに夢中です。「たぶん、夫や子どもに内緒だから楽しいのかもね」と友人が言います。誰にも邪魔されない秘密の家が、私の心の拠り所なのです。
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