体験をもとに示す「死の受容プロセス」

〈アテクシはTomyと申します。/40代のしがないゲイの精神科医です〉。そんな自己紹介ではじまる本書の著者は、今やツイッターのフォロワー数17万人超、独特な語りで、日ごろのモヤモヤを吹き飛ばしてくれると大人気の精神科医Tomy先生。この本は失恋、離婚、死別など、大切な人との別れに苦しんでいる人のための心の処方箋、エッセイ集だ。

Tomy先生はまず〈経験をシェア〉するという考えのもと、同じ精神科医だったパートナーとの死別体験を赤裸々に語る。ショックのあとに襲いくる心身の苦しみとその異変について、精神科医であり、父親の死を経験したはずなのに〈想像をはるかに超えたものでした〉という。あまりに率直に語るために何度かじわっとして、封印したはずの自分のつらい別れを思い出してしまった。

そして究極の別れである「死別」を受け入れていく過程を失恋や離婚など「別れ」全般に応用しながら、回復への道のりを示してくれる。それは米国の精神科医E・キューブラー・ロスが唱えた「死の受容プロセス」を基本にしている。そこに著者の壮絶な体験と豊富な臨床例からのアドバイスが加わり、「死別の受容プロセス」ができあがる。その語り口はどこまでもやさしく温かく、沁みる。思いがけず、自分のつらい体験を思い出してしまったが、読みながら、回復していく感覚も追体験することができるのだ。

〈別れからの「回復プロセス」を知ることは、必ず助けになります〉と著者は言い切る。そこでまたじわっとくる。回復するというのは学ぶことであり、そこに希望があるということを、Tomy先生はすぐ隣で教えながら、最後まで私たちを見守ってくれるのだ。

『失恋、離婚、死別の処方箋 別れに苦しむ、あなたへ。』
著◎精神科医Tomy
CCCメディアハウス 1400円