傍若無人な態度はわがフロアにも飛び火して

潮目が変わったのは、2年後。課長が異動となり、新たな課長が赴任してきた。Aさんよりずっと年下の女性リーダーも加わった。しかし、Aさんは相変わらず課長の隣の席から動かず、業を煮やした課長がほかの席への移動を命じた。しぶしぶ従ったものの、Aさんは自由奔放に振る舞う。その傍若無人な態度は、1階にも飛び火してきた。

それを知ってか、契約更新の際に、課長から「何か困ったことや理不尽な点があれば、どんな些細なことも必ず報告してください」と言われ、私はずいぶん肩の荷が下りた。課長はAさんに対する皆の不満の声を集めているに違いない。たとえ小さな批判や問題でも数が多ければ問題になる。私だけでなく、不愉快な思いをしてきた人たちの怨念が晴らせる! と期待が膨らんだ。

そんな折、我慢できない事件が発生した。庶務の仕事で使用する機械の入れ替えを、一番忙しい時期に行うとAさんが言うではないか! なぜそのタイミングで? どういう経緯なのか、直接話を聞きたくて業者に電話をすると、Aさんは「アルバイトが正社員を飛ばして業者に電話するなんて許せない」と逆ギレ。私も堪忍袋の緒が切れ、リーダーの女性に事実を告げ、課長にも報告してほしいと頼んだ。

Aさんに天罰が下る日は突然やって来た。思いもよらぬ時期外れの異動という形で。Aさんは、社内でも花形だったうちの課から、関連部門のようなセクションに追いやられることになった。課長を恨み、ほかの部門の部長たちに自らの正当性を説いて回っていたようだが受け入れられず、新たな課へ。私のいる課は、やっと以前のように和やかな職場へと戻った。

1ヵ月ほど経った頃、Aさんが1階に立ち寄り、私に今までにないような笑顔を向けて、こう言い放った。「新たな課は男性が多く、皆優しく親切で女王様気分を味わっているの」と。それはきっと負け惜しみ。しかし、もう関係ない人だから、「よかったですね。幸せ気分で働けて羨ましいですよ」と社交辞令で応じ仕事へ戻った。

さらに数日後、Aさんのいる課のスタッフと一緒になった。彼女曰く、「Aさんがずいぶん落ち込んでいて、ため息ばかりついているわ」。やはり私の直感は当たっていた。それから間もなく、Aさんは退職を願い出た。最終日は挨拶をして回っていたようだが、私の課へは一切立ち寄らず。その大人気ない態度はひんしゅくを買った。

彼女が以前、「定年になっても、2、3年は嘱託で残ろうかしら、私なら残ってほしいと言われるはずだから」と自信満々に言っていたのを思い出す。その落差に、天網恢々……とは本当だと改めて感じた。

Aさんが去った後、同僚が「今の課長だからこそ、彼女の悪行に終止符を打てたのでしょうね。ほとんどの上司は、恨まれるのが嫌で見て見ぬふりをするのに」と言ったとき、課長の英断に私は心の中で感謝を述べ、拍手を送った。


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