山の道具とおカネ

まずは石丸流の山の歩き方についてお話ししましょう。

山歩きの楽しみ方は、「何歳から始めるか」によって違ってくるのではないでしょうか。たとえば40代後半からの方なら、おカネにも時間にもゆとりができてくる。だから山歩きにおカネと時間をかけられる。そういう方には、「道具に頼りなさい、道具におカネをかけなさい」とアドバイスをする。どんなスポーツでも、道具におカネをかけると上達が早くなるし、ラクにできるようになる。

山の道具の場合、おカネをかけることによってなにが変わるのかというと、まず、背負う持ち物を軽くできる。若いころは余裕がないので装備類にあまりおカネをかけられない。重たい装備でも気にせず、体力にまかせてどんどん登っていた。それができたからよかったのだが......。中高年になるとやはり体力の衰えは隠せない。ありがたいことに、最近は驚くほどに軽量化が図られたリュックサックがあるし、コッヘル(登山用鍋)でも極端に軽く、湯がすぐに沸く高機能なものもある。雨具も充実している。高価といっても、目の玉が飛び出すほどでないのが、山のいいところだ。

もうひとつ別の考え方がある。若い人や、50歳を越えて「遅ればせながら、ちょっと山歩きをしてみたい」という人にお勧めなのは、「とりあえずは、いま持っているのを使って始めてみる」ことだ。普通の日帰りハイキングくらいなら、靴底にデコボコがあるスニーカーやトレッキングシューズで十分。足首まで覆うハイカットの登山靴でなくても、捻挫をしないように気をつけて歩くことから始めるのも良し。高尾山登山に、サンダル、ハイヒールはどうかと思うが、本格的な登山靴は必要ないだろう。慣れないうちに重たい靴を履いていると、かえって疲れてしまう。

石丸謙二郎さんの新著『山へようこそ ~山小屋に爪楊枝はない』

着古したシャツでも十分!

道具類は、山歩きに慣れ始めてから、たとえば2ステップくらいで買い替えるのがいい。2、3年で買い替えるのか、10年もつのを買うのか、どの山域でどういう山歩きを目指すのか。いくつかのパターンを考えてみる。ならば、次は登山用品店へ下調べをしに行こう。店員さんがいろいろ説明してくれる。もし登山に詳しい人がそばにいるなら、その人に同行してもらうのもひとつの方法だ。下調べが終わったら、いざ、山へ。まわりの人がどんな靴を履いているか、なにを着ているか、どんなものを持っているか、いろいろとまわりの登山者たちの道具やスタイルを見ることも勉強になる。

山でまわりの登山者を見ていると、中・上級者向けの用具を初心者が揃えている例をまれに見る。「いろいろな用具や服装をきちんと揃えないと、山へ行ってはいけないんじゃないか」。この考えはよくわかる。しかし、初心者は初心者用でいい。ステップアップしていく楽しみは、初心者の特権だ。ゴルフなら、古く錆びたアイアンを持っているとちょっと恥ずかしいかな。だけど山はそうじゃない。古い道具でも恥ずかしくない。