素材の進歩は著しい

山では、夏でも長袖シャツを着て長ズボンを穿く。半ズボンならその下に山用のタイツを履く。山道にはクマザサが多い。これで足を切ると痛くて風呂に入れなくなる。長袖を着るのは、木の枝や虫対策、転んだときのケガ予防など、いろいろな効果がある。ただしジーンズは避けること。ジーンズは雨に濡れると重くなって乾かないし、雪がつくと凍りついてゴワゴワに固まるからだ。(実は、僕の実体験です)

木綿のシャツは温かいが、汗が乾きにくくて重いので登山には不向き。登山用の吸汗速乾性のモノを使おう。素材の進歩は著しい。少々濡れると逆に発熱して温かくなるモノまである。大事なのは「暑い」「寒い」をガマンしないこと。立ち止まり、脱いだり着たりを繰り返して調整する。汗で濡れたシャツが体を冷やすとカゼをひくことになるからだ。忘れがちだが、靴下も大事。むかしは木綿の靴下しかなかったから、靴の中で汗をかいて濡れてしまう。これが靴ずれの大きな原因になった。いまは新しい素材のものがいろいろある。僕は化繊の靴下だ。薄手の上に厚手の温かい靴下を重ねて履いている。

三ッ峠山(山梨県)の山小屋から望む富士山(公式ブログより。撮影/石丸謙二郎)

山小屋に泊まってみよう

もう一歩上の登山を楽しみたくなったら、山小屋に泊まってみよう。さて、ここで必要な心構えがある。

「すみませ~ん、爪楊枝ありますかあ?」。山小屋の食事のあとに、声をかける登山客がいる。実は、「山小屋に、爪楊枝はない」。なぜないのだろう? ここで初めて気づく。爪楊枝とはぜいたく品なのだ。食事や寝床など最低限のものを提供してくれるのが山小屋。「個人的に必要なものは各自持ってきてほしい」というのが基本的な考え方。

「爪楊枝は、必需品ではない!」

山小屋で「爪楊枝をください」なんていうと、すぐに山小屋初心者だとバレてしまう。山小屋は、旅館やホテルとはまったく違う。ないない尽くしだ。(思いつくままに並べてみよう)

・ゴミ箱がない。ゴミは持ち帰る。
・浴衣などない。寝間着の工夫が必要。ハンガーはないと思ったほうがいい。
・歯ブラシもタオルもない。持って行く。
・スリッパはあったりなかったり。ないほうが多い。
・サンダルはちょっと戸外に出るときのために用意してあるところが多い。(現在は感染症対策として持参しよう)
・部屋にコンセントがない。スマホ用の充電器やデジタルカメラの予備電池を必ず持参する。充電スペースのある山小屋も一部あるが、制限がある。
・レンタル物はほとんどない。貸し傘はない。たまにヘルメットを貸すところはある。
・原則として風呂もない。あっても石鹸は使えない。

なにしろ山の中なのだから、日ごろの生活との違いを楽しもう。