ある日、娘の貯金箱にたまった小銭を預けようと、親子連れだってATMへ。最近、銀行口座を開いた娘には母として教えておかなければならないことはいろいろあるのだ。銀行についたところ、そこである事件が……!
女優の鈴木保奈美さんが『婦人公論』で連載しているエッセイ「獅子座、A型、丙午。」の単行本発売を記念して、収録されているエッセイを期間限定で配信します
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社会勉強
コツコツと娘のクマさん貯金箱にたまった小銭は、数えてみたら1万円ほどもあった。これは、あなたの口座に入れることにしましょう。この夏休みにアルバイトを始めた彼女は、バイト代を振り込んでもらうための銀行口座を作ったのである。
そこにあるお金は、好きにして良し。大切に貯めておくも、ここぞという時に使うも、自分で決めなさい。ここぞでもなんでもないくだらないことに使ってしまって後悔したとしても、それはそれ、勉強だ。ジップロックの袋に硬貨をジャラジャラと詰めて、二人で銀行へ向かう。なんだかちょっと、儀式のような気分。
ATMの前で、さ、ママは横で見てるから、自分でやってごらんなさい、と母親ぶって促してみる。勉強勉強。ええと、「お預入れ」を押すでしょう、それからキャッシュカードを入れて、合間に何度も「本当にお預かりしていいですか?」「お預け入れ先は間違っていませんか?」的な注意が出てくるけど、これは振り込め詐欺防止の注意なんだよね、若い人には関係ないことだと思わないで気をつけなきゃね、なんて話もしながら進んでいく。
そしていよいよ、現金をご投入ください、のくだりにたどり着いた。硬貨の受け入れ口が、アラジンがランプを取りに行く砂漠の洞窟のごとくにパッカリと開く。「ここにジャラジャラ入れちゃっていいの? 1円玉とか10円玉とか分けなくていいの?」「だあいじょうぶ大丈夫。機械の中でザザザーって仕分けして数えてくれるんだよ。すごいよねー。とりあえず入るだけ入れてみよう。レッツゴー!」