「ッス」は洗練された敬語表現!?
中村 サンキューさんは「ッス」を使います?
タツオ 芸人の世界ではよく使う言葉なんです。周りは使っているし、僕もたとえば少し年上の先輩には「ッス」って言ったほうがいいかなと思うときはあります。
中村 大先輩にも使う?
タツオ いや~、さすがに(北野)武さんには使えませんね。10歳くらい年上の人までですかねぇ。
中村 そういう線引きって面白い。ちゃんと使い分けているのね。学生たちはどんなに早口で会話をしていても、誰かが「ッス」と言うと、小さな声でも先輩はその音を絶対聞き逃さない(笑)。瞬時に、先輩だけが発言者の方向を見るんです。つまり「ッス」は絶対的に年下が目上の人に使う言葉なんですね。しかも親しみを込めて敬意を表現できる。若い人が上下関係に無頓着だとか敬語を知らないなんて嘘ですよ。そのあたりの感覚は若い人ほど敏感です。
タツオ そう思います。中村さんが「ッス」を《新敬語》とラッピングしてくれたように、今の若い人も年上に敬意は払うけれど、それよりも相手との関係における親しさの度合い――つまり《親疎関係》をより大切にしているんですよね。
中村 ええ。敬語については戦後、上下関係を表現するよりも、親疎を表現するものに変わってきています。特に今の若い人の間では、心の距離感がすごく重要視されているから、上下関係や社会的立場の距離よりも、親しさの距離を的確に表す言葉が必要だったのでしょうね。
タツオ 色にたとえれば、今まで、ものすごく丁寧な「です・ます」の緑色と、「だ・である」の黄色しかなかったところに、黄緑色の「ッス」っていう中間色があったんだと発見した。より洗練された敬語表現ですよ。これまで窮屈に感じていた関係を的確に表す言葉が生まれたんですからね。
中村 まさにそうです。
タツオ しかも「ッス」は短いのがいい。敬語って文を長くするのが原則ですが、「ッス」一つで大丈夫なんだから。便利です。
中村 言われてみると、そうね(笑)。学生に聞いたら、挨拶は「ちわッス」とかでもなく、今では「ッス」って小さく言うだけの人もいるらしいですよ。それだけでなんとなく丁寧に聞こえるって言うの。
タツオ 言葉はそうやって進化していくから面白いんですよ。