「誤用です」とは言えない理由

タツオ 僕は大学で留学生に日本語を教える機会があるのですが、《正しい》日本語だけを教えるのは困難です。たとえば「申し訳ございません」は本来、正しくない言葉です。強いていうなら「申し訳ないです」「申し訳のうございます」「申し訳ないことでございます」が正しい。でも「申し訳ないです」は丁寧さが足りないし、「申し訳のうございます」は大げさだな……と思うからこそ、「申し訳ございません」という表現が生まれ、しっくりきたわけですよね。それを外国の人に「誤用です」とはとても言えないですよ。実際使われていますからね。

中村 新語が苦手だという人は、一度使ってみると面白いのにね。相手との関係を見ながら、パッと使ってみたらもっと親しくなれるかもしれない。

タツオ 僕も新しい言葉は研究対象として、しっくり来るまで自分で使ってみます。ただ最近は新しい言葉が多すぎるので、ついていけなかったり、使う相手がいなかったりすると、便利さや面白さは伝わりにくいでしょうね。

中村 確かに私も「ッス」を目下の人には使えないし、使わないですよね。ただ高学歴の人など意外な人が使うと、ギャップが楽しかったりもしますけどね。

タツオ 言葉は使ってこそのものですからね。辞書に載っていないけれどみんなが使っている言葉は、まさに今、言葉が動いていることの証明です。それでもみんな、やっぱり「正しい日本語」に惹かれるんだけど、「正しさ」なんてないんだよ、ということを、僕ら世代や中村さんのような研究者が、これからも啓蒙していかなくちゃいけないと思っています。

中村 うーん、サンキューさんはやっぱり真面目な人ね。ふざけたふりをしているけれど、真面目で聡明な方だというのが端々で伝わってきます。きっと大学でもいい先生なのね。

タツオ あはは。ありがとうございます。(笑)