自分なりの『君の名は。』を描きたかった
町田 私、小説家の氷室冴子さんが大好きで、学生の頃からずっと小説家になりたいと思っていたんです。でも、結婚して子どもを産んで、目の前の生活に追われるままずっと時間だけが過ぎていました。28歳のとき、氷室さんが亡くなったことを知って……。当時は専業主婦で、家で子どもを育てる毎日に、なんとなく膿んでいた時期だったのですが、小説家になろう、と思い立って。その頃はケータイ小説が流行っていて、私も書いてみたんです。赤ん坊だった娘を抱っこしながら片手でガラケーにちびちび文章を打って、小説を書きはじめました。小説家を目指す自分というだけで、いままでの退屈な自分から抜け出せたというか、一歩進んだという気持ちになりました。
カツセ 何かを目指し始めるだけで、すごく充実し始めますよね。僕も小説を書き始めてから、あらゆるものが全部ネタになりそうな予感がしています。
町田 話は変わりますが、『明け方の若者たち』は、ファンタジーで終わらせていないところが、『52ヘルツのクジラ』と似ていると感じました。
カツセ 「すべてうまくいきました」だと、ただのファンタジーになるし、何より読者を裏切るのではないか、と感じていました。映画の『君の名は。』を観終わった後、主人公とヒロインが再会して終わったのが、僕は全然嬉しくなかったんです。隕石が落ちて、離れ離れになって、お互いに生きているのを知らずに、「好き」っていう気持ちを捨てきれないまま暮らしましたというほうが、よっぽどリアルなんです。だからふたりが再会した時に、ちょっとだけ裏切られた気持ちになりました。
町田 なるほど。『明け方の若者たち』は決してそうではありませんね。
カツセ 僕は、『明け方の若者たち』で、自分なりの『君の名は。』を書こうと思ったところもあったんです。だって実際の恋愛でも、そんなきれいに終わるなんてことはないじゃないですか。悩みに悩んだままでいい、ということがむしろ言いたかったんです。
町田 私も『52ヘルツのクジラたち』で虐待などの問題を扱った以上、ファンタジーにはするまい、と思っていました。あのまま「幸せに暮らしました」では、ファンタジーになってしまう。むしろ、虐待を受けた子どもと主人公がこれからどう生きていくのか、というところを書かないと終われなかった。
カツセ 彼らがこの先どう生きていくのかを描いたエピローグのところが、本当のメインというか、オープニングのように感じました。「いつまでも被害者ではいられない」。そういうメッセージが込められていて、背中を押してくれる作品でした。
町田 嬉しいです。カツセさんは次の作品で、何を書かれるんでしょうか。すごく楽しみにしています。
カツセ 今回は一作目なんで、自己紹介的な要素もあったのですが、今度はむしろ、自分とはすごい遠い話を書いてみたいな、という思いもあります。
町田 私、個人的にはクズな男が大好物なんです……(笑)。そういう男性がたくさん出てくる話を読んでみたい。
カツセ えー!! でも、僕も映画などではそういうテーマ、すごく好きです。
町田 ぜひ、供給してください。最後にこんな話ですみません……。