咲 父のような体の状態だと、何かきっかけがないと自分から出て行く場がない。そうすると、家の中だけの閉ざされた生活を余儀なくされるわけで……。なので、父の体に負担がかかりすぎない程度に、イベントのスケジュールを入れるようにしているんです。行動できる喜びが、生きるパワーにもなっているんじゃないでしょうか。こん平師匠、イベントに出るのは嬉しいですか?
こん平 (両手を大きく上に開いて)はーい、楽しいで〜す。
咲 疲れたりしませんか?
こん平 ぜんぜん疲れない。だいじょうぶ。
子どもの頃は父と距離をとっていた
現在、こん平さんの要介護度は2になった。ベッドから起き上がるのはもちろん、着替えや歯磨き、食事、トイレに行くのもひとりでできる。介護は、朝昼晩の食事の用意、身の回りの世話など、咲さんと妹さん、ヘルパーさんとで、細かく分担を決めている。そして、イベントや通院など、外出や移動の付き添いはすべて咲さんの担当だ。
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咲 父はもともと気性が激しくて、実は、私と性格がすごく似ていまして。(笑)
こん平 (うなずく)
咲 そんな父ですが、病気で倒れてからは、とても穏やかになりましたね。実を言うと、子どもの頃は父と距離をとっていたときもありました。仕事だか遊びだか知りませんけど、家に帰ってこなかったですし。運動会も授業参観も、一度も来たことがない。
こん平 はい、そうです。(笑)
咲 帰ってくるときは、いつも酔っ払っていて、クダ巻いて母に突っかかったり。ちゃんとした姿で帰ってくるならまだしも、人に迷惑をかけたり家族の安眠を妨害するくらいなら、いっそずっと帰ってこなくていいと思ったものです。
こん平 あはははは。
咲 ただ、自分がシングルマザーとなり、一家の大黒柱として働くようになってから、経済的な面を背負う責任とか、仕事のつきあい、家に早く帰れないこと、電話にもなかなか出られない状況だとか、わかるようになりましたね。とはいっても、全部が全部、理解できているわけじゃないですよ。
こん平 ………。