求められているものにひとつひとつ応えていく
そんな清原さんが、「大変だったけど楽しかった」と笑顔で振り返るのが、公開中の映画『ジョゼと虎と魚たち』だ。原作は、田辺聖子の青春恋愛小説。2003年に実写映画化されたこの作品が、アニメーションとしてスクリーンに初登場する。清原さんが声を吹き込んだのは、生まれつき足が不自由で、人と触れ合わず自分の世界を生きてきたジョゼ。海と魚に惹かれ、海洋生物学を学ぶ大学生・恒夫と出会い心を開いていく。
ジョゼは、きつい調子の関西弁で話すにもかかわらず、ふわっとしたビジュアルのおかげで、生意気なことを言ってもキュートに見えちゃうという魅力的な女の子です。性格は、気の強いところもある一方で、とっても臆病。恒夫と触れ合うことで、ジョゼは世界をすこしずつ広げていくのですが、恒夫に向かって手を伸ばしたいのに、臆病なためにそれができなくてあきらめてしまう。演じていても、ジョゼのこの臆病さと素直になれない不器用さが切なくて、愛おしくてたまりませんでした。
大変だったのは、声だけで演じるということです。実写だったらしぐさや表情など、全身から発する情報すべてを使えるのですが、アフレコでは声しか使えません。アフレコはデビュー直後に一度やらせていただいたことはあるものの、まだまだ右も左もわからない状態。声優さんたちが当たり前のように身につけている技術がきっとあると思うのですが、それがない状態で収録に臨まなくてはならなかったんです。だから、監督の話をちゃんと聞いて、求められているものにひとつずつ応えていく。ひたすらこの繰り返しだったように思います。
とくに難しいと思ったのは、感情の起伏が激しいジョゼの気持ちのアップダウンを、声色だけで表現しなくてはならなかったことです。遠くに向かって叫ぶ場面では、遠くにいる相手に届けるための声を出さなきゃいけないし、距離感によって声は大きくなったり小さくなったり。そんなひとつひとつの声のベクトルをしっかり意識して出さないと、完成したアニメーションとなじまないんです。
ジョゼが車椅子から降りて這うように移動するシーンがあるんですが、声を入れてみると重みが全然足りない。どうすればリアリティのある声を出せるか悩んだのですが、実際にやってみようと思い、その場でほふく前進をしてみたこともありました。それがジョゼに近づくための最短ルートなら迷わず進んでみる、そんな気持ちでした。
ジョゼを演じてみて、そしてできあがった作品を観て改めて思うのは、恒夫は本当にやさしいなあということです。ジョゼに対して寛容で、たまにケンカをすることはあるけれど、二人の関係性を大切につないでくれる。ジョゼと出会ってくれてありがとう、と本気で思いました。出会いで人は変わる。やっぱり出会いは大切なんですよね。