●午前10時半
他病院からの緊急搬送。
福田病院は地域周産期母子医療センターに指定されているので、月に20件くらい母体が他病院から搬送されてくる。母子ともに重症ということもある。緊急搬送されてくるとわかった時点で、産科のスタッフはもとより、新生児センターの医師や看護師に連絡、すぐに体制を整えるのが私の仕事だ。各部署の連携プレーがうまくいかないとスムーズな出産や治療ができないので、素早く確実に連絡することはとても重要だ。
運ばれてきてすぐに「帝王切開します」と言われても、産婦もご家族もなかなか納得できないと思う。だが、赤ちゃんの心拍数が下がっているので、ここは詳しく説明している時間がない。
「不安ですよね。混乱しますよね。でもできるだけ早く赤ちゃんが無事に誕生するようにしますから」
そうやって声をかけ、産婦さんの手を握ると、少しだけ表情がやわらいでいく。
赤ちゃんは無事に産まれたが、合併症などがないかどうか経過観察するために新生児のための集中治療室(NICU)へ。お母さんも無事とわかってほっとする。
●午後12時半
ランチタイム。職員用の食堂で、今日は定食にする。若い助産師たちと談笑。
●午後のシフト確認
午前中は帝王切開2人、通常分娩が2人。午後は通常分娩が3人。
この日の深夜帯には3人が産まれたとあとで報告があった。1日10人前後の赤ちゃんが産まれる。母子全員が無事でありますようにと私たちは全力を尽くしている。
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福江さんは言う。
「無事に赤ちゃんが産まれて、産婦もご家族も満足してくれる。これがいちばん。それを医師や看護師や助産師などチームでサポートしていく。私が若い助産師たちにいつも言うのが、『自分が患者さんの立場になること、家族の立場になること』です。自分がしてもらってうれしいこと、気持ちがほっとすることを言葉や行動で示しなさい、と。患者さんとはとにかくよく話して、出産後のケアも大事にしてほしい。不満や不安があるまま退院してしまうと、育児にも悪影響が出てくるケースがありますから」
病院という場所は常に喜びがある一方で、母子の生命の危険性、母親の不安定な心理が渦巻いている。職員たちにとっては闘いの連続なのである。