宇野重規・東京大学教授(撮影:本社写真部)
『民主主義とは何か』などの著書のある宇野重規氏(東京大学教授)は、新たな思想の拠点をつくりあげようとする東浩紀氏をどう分析するのか。東氏の10年間の挑戦を綴った『ゲンロン戦記』から読み解くとーー

ルソーの現代性を鮮やかに浮かび上がらせた

はじめに書いておくが、筆者は東浩紀さんと親しいわけではない。たしかに東さんが運営するゲンロンカフェに参加したことはある。そのトークイベントの一部が、東さんの『一般意志2.0』の文庫版に収録されてもいる。スタジオを探せば、どこかに筆者のサインが残っているはずだ。とはいえ、東さんとちゃんと話したのはそれきりであり、その後は会う機会もない(お誘いは受けたが、こちらの事情で実現していない)。

ときどきTwitterで見る限り、必ずしも政治的意見が一致するわけでもない。というよりも、正面からぶつかることの方が多いかもしれない(上記のイベントでも、二人の違いが明らかになっている)。にもかかわらず、東さんは筆者にとって、いつも気になる存在である。『一般意志2.0』も、連載の初回を読んだときにガツンと受けた衝撃は忘れられない。筆者と東さんのルソー解釈は同じでないが、ルソーの現代性をここまで鮮やかに浮かび上がらせたかと圧倒されたことは間違いない。

その東さんの近刊『ゲンロン戦記』を読んだ(以下、東さんを著者と呼ぶ)。著者が創業した株式会社ゲンロンの凄まじい記録である。普通、この種の本は、いろいろ困難はあったけど、最後は「めでたしめでたし」で終わることが多い。ところが、本書で繰り返し述べられるのは、著者が信じる人々に裏切られ、あるいは去っていかれる話の数々である。最後はやや状況が好転したかと思えるのだが、「あとがき」でさらに衝撃的な事件が加わる。