ユルユル、カチカチ、パサパサ

「ユルユル美学」の夫は、「焼き」に関してもこだわりがある。「あっ、焼きすぎた!」と言っては、わざと焦げトーストを作り、おいしそうにガリガリと食べている。カチカチになるまで火がとおった目玉焼きや、パサパサのスクランブルエッグなどは見るも無残。

お好み焼きをまかせれば、豚肉が炭になる寸前までひっくり返さない。おかげで、焼けすぎた豚肉で、口の中を切りそうになったこともあった。焼き魚もお皿の上でカチカチ、食べようとお箸を入れたら、勢いあまって1メートルくらい飛んで行ってしまったことも。夫は生肉か、完全焼きか、どちらか極端でなければいけないらしい。

私としては一日でも早く、日々の炊事から解放されたいのだが、こんなクセのある夫に炊事のバトンを渡せる日など来そうにもない。

ところで、世間では食事の後片付けを嫌う人が多いと聞くが、私は昔から結構好きだ。汚れた食器やお鍋が、自分の手によってきれいになっていく過程は気持ちがいいし、ちょっとした気分転換にもなる。そんな私も冬場は、時々夫に食器洗いを頼む。しかし夫が洗った食器やフライパンは、大抵洗い残しがあるのだ。

一体どんな洗い方をしているのか、こっそり観察してみると、鼻歌まじりに始め、洗う対象をまったく見ていないことがわかった。ポンポンとスポンジで撫でているだけのいい加減さである。私が見てないと思って、食器の洗い方までユルユルとしていた。

「そんな洗い方をしてるから汚れが残るんじゃない。私がいつも二度洗いしているの見てるでしょ。お願いされたことは完璧にやって!」「汚れ、そんなに残ってる? ちゃんと洗ってるつもりなんだけど……」「私の洗い方をちゃんと見て覚えて!」

私は夫がすでに洗った物をもう一度洗い始めた。