洗面所の悲劇
このように、夫の「ユルユル美学」は日常のいたる所で発見される。先日も、冷蔵庫からポン酢の瓶を取り出す時、急いでいてうっかりユル閉めされたキャップ部分を持ってしまった。あわや、大惨事になるところ。昨日最後に使ったのは……あいつだ。
急いでメイクをしている時も、綿棒の容器を持ち上げた瞬間、中身をばらまいてしまう。閉まっていない蓋がはずれてしまったのだ。昨日耳掃除をしていたのは……あいつだ。
ある日、悲劇は洗面所で起こった。残り少なくなった歯磨き粉を先端に集めようと、チューブを大きく振ったその瞬間、白いペーストが宙を舞う。洗濯機やら鏡やら、脱衣籠の細かな編み目にまでベッタリとペーストが飛び散っている。あれほどキャップはきちんと閉めてと頼んでいるにもかかわらず、なんじゃこりゃ! 私の怒りは限界を超え、そろそろ大噴火の予感だ。
「いつも歯磨き粉が残り少なくなると、チューブをこう振ってるの、知ってるよね?」「閉めたつもりだったんだよ」「ふざけんな! お風呂の蛇口もポン酢も、綿棒の蓋も、全部ユルユルに閉めて!その理解できないクセのせいで、後始末する私の身にもなってよ!」「いつも迷惑ばかりで申し訳ない。自分で自分が情けないよ」
捨て犬みたいな表情で、上目遣いに私を見る。人の話を右から左に受け流す天才だ。そして決まって、心にもない詫びを入れてくる。毎回毎回、着地点のないこの問答が繰り広げられるばかりで、私の長年の訴えはすべて徒労に終わるのだ。