『夫が倒れた!献身プレイが始まった』著◎野田敦子 主婦の友社 1300円

 

「介護本」の枠に収まりきらない言葉の力、著者の魅力

〈犬の散歩から帰ると夫が倒れていた〉と始まる本書は、これまでになかった本音、そして「よくぞ書いてくれた」という共感と気づき満載の介護本である。いや「介護本」の枠に収まりきらないほど言葉の力、著者の魅力が横溢している。一気読みの後、付箋ぼうぼうになっていた。救急車で運ばれた夫は脳内出血を起こしており、手術をしても高い確率で植物状態に陥ることを医師から告げられる。この日から始まった怒濤の日々。駆けつけてきた義母と見舞客の言葉から感じる介護プレッシャー、夫の借金発覚など、次々と降りかかってくる出来事を赤裸々に綴る。

一方で著者はベッドに横たわる夫を前に〈何をやっても気持ちにそぐわない〉感じを覚えてしまうのだ。義母のように一生懸命声をかければかけるほど、陳腐なドラマのようで〈献身プレイみたいだ〉と思う。介護は人それぞれ違っていて当然だが、絶望の淵にいるとき、実感が伴ってこない感じは誰にでも思い当たることだ。

そこで著者は介護の合間に、夫のこと、出会いから結婚、自分たちはどんな夫婦だったか、とことん考えるのだ。そして〈つくづく看病とは、夫と第三者と私の関係性が生みだす社会的行為だ〉という名フレーズにたどりつく。他にも〈なんの責任も負わない外野のセンチメンタルな愛情表現は、介護当事者の気持ちを逆なでする〉〈「希望ごっこ」は、終わってしまった〉そして、最後の〈生きる。私なりの献身で〉など箴言の数々に付箋を貼らずにはいられない。

著者の言葉が印象的なのは、介護の現実と向き合い、葛藤しながらも、とことん考える過程で自らを客観視しようとしているからだ。ここに綴られた言葉たちは、説得力と普遍性と力を持って、介護に対する不安な心に喝を入れるがごとく、パシンとしなやかに打ちつけてくる。