世界は捉え難くなり、未来は見通せない
人類が地球を支配したのは、唯一ヒトが多数でも協力できる動物だからです。一対一ではチンパンジーにも負ける。1000対1000なら楽勝です。ピラミッド建造から月面着陸に至るまで人類の偉業は無数の人間の協力のたまものです。
現代の人類は協力を忘れ、分裂と敵対を選んでいるようです。
人間は物語の動物でもある。世界を大きな物語として捉えています。一つの物語を共有する人間どうしは協力が容易になります。古くは聖書やコーラン、仏典などが大きな物語でした。
20世紀前半、三つの大きな物語がありました。自由民主主義・共産主義・全体主義です。それぞれが独自の世界観を作っていた。第二次大戦で全体主義が廃れ、冷戦で共産主義が朽ちる。自由民主主義の独り勝ちです。民主政治と自由経済が支配的制度になり、グローバル化と併せて、人類は世界共同体に向かうはずでした。
ところが2008年の米国発の世界的な金融危機以降、米欧を含めて人類は唯一残った大きな物語の正しさを疑い始めたのです。貧富の格差が拡大し、世界は捉え難くなり、未来は見通せない。不確かで危うい時代の到来です。
世界秩序も変化しました。20世紀末に「唯一の超大国」となった米国は、中印露などの新興諸国の台頭を受けて相対的に力を落とす。オバマ政権時代に「世界の警察官」の役を降りてしまいました。
物語の真空地帯に復古的な民族主義と宗教が侵入しました。内向きなポピュリストらが旗を振り、分裂・敵対をあおっている。その象徴が17年に米大統領に就いた「米国第一」のトランプ氏です。