IT独裁をいかに食い止めるか

人類の存続を脅かす3つの危機があります。核戦争・破壊的な技術革新・地球温暖化を含む環境破壊です。いずれも世界が協力して対処すべき喫緊の課題です。

破壊的技術革新ではコロナ禍を通じ、AIやIT技術を駆使した監視体制が正当化され、整備が加速しています。

顕著な例は中国です。習近平政権は顔認証システムなど先端技術を総動員して人びとを常時監視し、個々人の情報を集計・解析している。人間をハッキングしていると私は表現します。生体センサーの携帯を義務づければ、一人ひとりの血圧や心拍など皮膚の下まで監視できる。政権は市民の感情の動きを含めて本人以上に本人のことを把握することになります。

習氏は権威主義を強め、自身に権力を集中しています。いずれは人類史上初のIT独裁体制を敷くこともできるでしょう。

中国だけの話ではありません。

米国の巨大IT企業はパソコンやスマートフォンの画面上の広告を消費者にクリックさせる手法の研究を重ね、憎悪や恐怖、不安を刺激すれば人間の注意を引き、行動を導けることを発見している。これもハッキングといえます。

その先にあるのはAIが市民一人ひとりに「最適解」を差し出し、本人に意識させない形で思考と行動を操作する未来です。人間の自由意思を否定する未来です。

自由民主主義という大きな物語の失墜は、破壊的技術革新とも関係しています。自由経済と民主政治は人間の自由意思を根幹としているのですから。

民主主義は繊細な花のように育てるのが難しい。独裁は雑草のように条件を選ばない。「コロナ後」の世界の潮流がlT独裁へ傾いてゆくのではないかと心配です。

私の願いは自由民主主義の国々が3つの危機に正対し、結束することです。コロナ禍はその試金石といえます。

イメージ写真:写真AC

米国は世界の指導者の役割を改めて担ってほしい。相対的に衰退したとはいえ、最強の国です。最も富み、軍事力は他の追随を許さず、先端技術の先頭走者です。

バイデン大統領には、米国を一つにまとめ、国際主義を貫いてもらいたい。

米国に加えてEUと日本、韓国などが世界戦略を共有し、新しい同盟関係を構築する必要もあります。それができれば、過熱する米中対立に一定の抑制が働くと思います。

無論、実現は容易ではありません。米国は2つに割れ、日韓は反目し、EUも英国の離脱を含めて問題を抱えています。

それでも私は民主主義の自己刷新能力を信じます。民主主義は自らの過ちを認め、修正できる。脆弱ですが適応力もある。

人類は物事を決定する力を手放してはならない。歴史の流れを定めるのは私たち人間です。