2005年11月、中村鴈治郎が「四代目・坂田藤十郎」を襲名した。初代の坂田藤十郎(1647~1709)は、元禄年間、近松門左衛門と組んで多くの名作を残し、情緒纏綿とした「和事」の芸を確立した。その大名跡を231年ぶりに復活することに込めた思いを訊ねた
「今」を感じる舞台を
53年、扇雀と名乗っていた頃に、『曽根崎心中』のお初を演じて大評判となり、「扇雀ブーム」を巻き起こした。06年1月の襲名披露公演でも、お初を演じている。
『曽根崎心中』は、海外でもよく演じますが、男女の仲というものは古今東西を問わず、普遍的なものなのでしょうね、韓国でもロシアでも、拍手が起こるのはいつも同じ場面なんです。幕が下りると、必ずスタンディング・オベーション。そういった意味で、古いものをお見せするというより、21世紀のお客様に「今」を感じていただく舞台でありたいと思っています。(略)
歌舞伎は、伝統や格式にこだわらなければならないという思い込みが、作り手の側にある気がしますが、今のお客様に楽しんでいただけるかどうかを基準にして考えるべきではないでしょうか。
「型」と言いますでしょう。歌舞伎の発声や仕種には伝統的なテクニックがありますし、そういうものは若いうちに叩き込んでおかねばなりません。でも、それはあくまでも基礎で、初代の藤十郎も言っているけれども、心や気持ちから出てくる動きじゃないと、人の心を打つことはできないんですね。
『曽根崎心中』の、こういう場面で、自分だったらどういう気持ちになるか。女性であるお初だったらどうか。それを考え抜いて役を作っていくことが、「今」のお客様に受け入れていただくことにつながると思っています。(略)おかしな話ですが、「坂田藤十郎」になってからのほうが、「中村鴈治郎」の頃より、やりたいことがやれるな……と。スタッフがよく言うことを聞いてくれますからね。名前の威力ってあるんですよ。(笑)
そういうふうに、襲名によって歌舞伎が活性化していけば、大きな意味があるのかなと思いますね。