息子たちの口上を聞いて
今回の襲名披露公演の、口上がね、とってもよかったんですよ。
普通の口上は、たいていお父さんの名跡を継いだりするわけだから、その家のことばかり喋るでしょう。「父の名を辱めぬように」とか。ところが今回は、大名跡が231年ぶりに復活することで、新しいことが始まるのではないか、そういうことを、後輩の役者たちが言ってくれるんですよ。
長男の翫雀(かんじゃく)は、「70歳をすぎて、坂田藤十郎を襲名する父の勇気に驚いた。私もがんばらなければ」と言ってましたが、次男の扇雀などは「父が遠くに行ってしまい、私だけ取り残されたような気がする」、つまり、私の父から続いてきた鴈治郎―扇雀の親子関係のサイクルから解放されたみたいで、羨ましい、嫉妬さえ感じるってわけですよ。
こんな口上、私も今まで聞いたことないしね。嬉しかったですね。
歌舞伎の公演は実にハード。一つの劇場での公演が始まると、休日はない。
こんな生活を何十年も続けてきて、皆さんからも「元気ですね」と言われますが、普段、余計なことを考えないのがいいんじゃないでしょうか。ひとつには、一緒に住んでる人が、そういうふうに仕向けてくれることが、大きいですね。
妻も忙しい身なんだけれど、私が帰ってきたら必ず夕食が用意してありますしね。ああいう特殊な世界に身を置いてるわけだから、言いたいこともあるんじゃないかと思いますが、自分の仕事のことは一切、口にしません。私の芝居も、時間があれば必ず見に来ますけど、私の芸について、家であれこれ言うことはありませんな。
いわば、家庭では普通の夫婦にしていられる、これが健康の源だと思いますが、それについては、妻の力が大きいと思いますね。