私たち娘が引き継いだのは

新しいコートを身につけて出勤した日の夜、帰宅するや否や父は「このコートはなんて暖かいんだ! なんて軽いんだ!」と、感動を伝えてきたという。その感想こそ、結婚25年にしてはじめて母が手にした勝利の証しだった。母はまるで鬼の首をとったかのようにいまだに嬉しそうに話すのだから、長年価値観の合わなかった夫婦にとって、記念すべき日であったのだろう。

役員出向だったせいか、父は料亭などで接待を受ける機会が増え、日に日においしいものへの興味も増していった。この頃から、母と2人で海外旅行をするまでになったのだから驚きだ。とはいえ、長年沁みついたしまりのよさを180度変えることは難しく、飛行機はビジネスクラスを使いたがるのに、海外でも頑として安い宿しか認めなかった。

そんな両親のもとに育った姉2人と私はといえば、両極端な価値観をそれぞれ引き継いだように思う。一番上の姉は父に似て、質素な暮らしを好んでいる。ティッシュを使う時は、2枚組をはがして1枚にし、その1枚をさらに半分に切って使うというしまり屋だ。

母親に似ている2番目の姉は、欲しいもののためには金に糸目をつけず、パーッと使うタイプ。最近あげたばかりの結婚式は700万円ものお金をかけた盛大なものだった。

末っ子の私はそのどちらでもない、「ごく普通」の金銭感覚だと思っているが、父や母、姉たちを見ていると、自分の「普通」は他人にとっては普通じゃない場合もあるのだろうな、と思うこの頃だ。


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