懲りずに高級品を買う母
しかし、父も父だが母も母なのだ。怒られるとわかっているのに、懲りずに刺身や牛肉を食卓に並べたし、私たちには高級ブランドの子ども服しか着せない。というのも母は、「手にするなら、質の高い《ホンモノ》を選びなさい」という教育方針のもとで育っているからだ。
いい食材、着心地のいい服のなにが悪いのか、何度注意されても理解することができず、「多少値段が高くても、いいもののほうが野菜も服も長持ちするの。かえって経済的よ」と、一蹴していた。真逆の価値観を持つ父と母がなぜ結婚に至ったのかは、私たち姉妹にとって永遠の謎である。
子どもの頃に行った旅行もまた、ある意味で思い出深い。わが家の旅行といえば、父の強い意思によって、車で行ける場所にある国民宿舎を利用するものだった。しかも宿舎の中でも一番安いのではないかと思われる、1人あたり1泊2000円ほどの宿を父が探し出してくるのだ。
そんな宿だったからか、ハエがブンブン飛んでいる宿舎の食堂で馬刺しを食べたこと、朝起きたらダニに全身を刺されていたことしか記憶にない。もちろん、お土産などは買わせてもらえなかった。