宮城県石巻市(写真提供:写真AC)

東北の経験を活かしていくために

被災地で支援活動を続けてきた企業や団体が、5年、10年を区切りに撤退するケースは多い。そんななか、今年3月上旬に新しい伝承館をオープンさせる団体がある。「公益社団法人3・11みらいサポート」。名前や組織形態を変えつつではあるが、震災直後から活動を続け、現在は伝承と防災教育に力を注ぐ。

中でも特徴的なのは、被災者が自身の体験を伝える語り部プログラムの運営。修学旅行や企業研修などで訪れる人たちに、街を案内しながら語ることも多い。

「オープンな場で話すのは技術もいるし、精神的な負担が大きい。家族を亡くし、家を流され、それでも他者のために語ろうとする。そんな人たちは、東北の宝。全力でサポートしたいと思っています」

そう話すのは、専務理事の中川政治さん。彼も震災直後に京都から駆けつけた、移住者である。

当然、難しさも伴う。自分の体験を大勢に向けて話せる被災者は少ないうえ、地元では誹謗中傷が耳に入ってくることもある。「震災の話をして金をもらうのか」。ナイフのような言葉をぶつけてくるのも、多くの場合、また被災者だ。

スタッフのひとり、伊藤聖子さんは、家族や親戚は全員無事だったが、当時働いていた職場が1.5メートル浸水し、内陸にある自宅も地震で半壊の被害にあった。

「それでも、家族を亡くした知人からは『あなたに私の気持ちがわかるはずない!』と言われたことがありました。同じ地元でも境遇の差やとらえ方の違いが歴然とあって、その部分はとても複雑です。が、地元の被災者と外の人をつなぐ今の仕事では、心の傷が深すぎない私だからこそ、バランスをとれる部分もあると感じています」