10年ぶりに見た子どもたちの姿

昨年、東京にいる綾子さんの父が入退院を繰り返した。コロナ禍で持病もあり、心配したがなんとか持ち直し、退院。その後父は猛然と、ある動画の編集を始めたという。ずっと引き出しの中にしまってあった、孫たちのビデオだ。

「東京の実家にしか残っていなかったので、いつかはと思っていたのでしょう。無理に観なくていいけど送っておくから、と。それで私たち夫婦も意を決し、お正月に観たんです。泣きながら、笑いながら。10年ぶりに子どもたちの動く姿を見、声を聞きました」

実家に電話をし、「観てよかった。宝物にするよ」と伝えると、父は短く嗚咽して、安堵したように電話を切った。

「人前に出る時は絶対に笑顔でないといけない、人に心配をかけてはいけないと思ってきました。が、ビデオを観て、悲しくていいと思えた。これだけ可愛かったのだから、大切だったのだから、悲しみが深くて当たり前なんだって。悲しいという自分の気持ちを肯定できて、なんだかホッとしました」

数年前、私が初めて会った頃から、綾子さんは常に笑顔の人だった。今さらながら、その心の奥底の、計り知れない努力を知る。