私よりもつらいのは夫だ

「私は正直、どうでもよかった。むしろこの場所でイベントなんて、と信じられない気持ちでした。夫もわかっていて、『恨んでいる相手と一緒にいてもつらいだろうから、離婚して東京に帰ってもいいよ』と。私は何も考えられない、ただ険悪な関係が続きました」

そんな綾子さんがついに限界を感じて仕事を辞め、何もしない日々を過ごせたのは、被災から実に1年以上が経ってからのこと。みなし仮設として借りた山の上の一軒家。そこでじっとしていると、ようやく、あまりにも忙しく働く夫の姿が見えるようになってきた。もしかしたらこの人も、自らを痛めつけるように、走り続けているのではないだろうか……。

「その姿を見て、私よりもつらいのは彼のほうだ。子どもたちを救えなかったと自分を責め続けているのは彼だ、と気づいたんです」

綾子さんは初めて、伸一さんの活動に手伝いを申し出た。「チラシぐらい、私が作ってあげようか？」。

ありえないと思っていた自宅跡でのバーベキュー大会にも、避難所で一緒だった人たちが集まって「ありがとう」「楽しかった！」と帰っていく。そうか、みんな楽しんでくれるのか……。大切な人たちの笑顔が、綾子さんの心を少しずつ解かしていった。自宅跡のコンテナは今や地域の活動拠点、輪の中にはいつも彼女の姿がある。