ユニクロに通い出して一ヶ月、私は突如天啓を得る。
ある日、商品棚の上に乱雑に置き捨てられたTシャツの山が気になった私は、それを綺麗に畳み直してから元の場所に戻した。すると、心の中に小さな満足感が生まれたのがわかった。失恋してからというもの、こんな充実した気持ちになるのは久しぶりだ。気を良くした私は、店内をくまなく巡回し、乱れた衣服を発見しては、店員より先に畳み直す行為をひたすら繰り返した。
Tシャツ。
チノパン。
カーディガン。
ネルシャツ。
ジーンズ。
ぽっかりと空いた心の穴をユニクロ製品が優しく埋めていった。
それからというもの、週に五日は店に通い詰め、一心不乱に服を畳み続ける私。その姿はもはや“ユニクロの怪人”であった。
だが当然のごとく、店員でもないのに商品を畳む変質者を、従業員はしっかりとマークしていた。
そして“終わり”は突然やってきた。
ついに業を煮やしたのか、つじあやのによく似た清楚な女性店員が私のもとに近づいてきた。頭の先からつま先までユニクロ製品でフォーマルに決めた、いかにも仕事ができそうなタイプだ。これは偏見でしかないが、つじあやのによく似た女は普段は優しいけど怒るとヤバいぐらいに怖い。
どうやら年貢の納め時か。
ユニクロを私利私欲のために使わせてもらっている償いに、薄手のカーディガンや靴下を大量に買っていたのだが、その想いは届いていなかったようだ。まあ、警察に突き出されるような悪事ではないし、心から謝罪すれば許してもらえるだろうと、私は高を括っていた。
目の前にやってきた店員は、深々と頭を下げてからこう言った。
「お客様、当社の製品を綺麗に整えていただいているのをいつも拝見しておりました。本当にありがとうございます。一度お礼を言いたかったんです」
不意に浴びせられた感謝の五文字。
「ありがとう」
それはまったく予想だにしていなかった言葉だった。
この店員は嫌味を込めてそう言ったのかもしれないが、それでもいい。
人に感謝されることがこれほど嬉しいなんて、すっかり忘れていた。ああ、そうか、私は誰かに少しだけ優しくしてもらいたかっただけなんだ。
その瞬間、私の目から自然と大粒の涙が溢れ出す。
「いや、僕なんて……すいませんでした!」
私は慌てて店の外に飛び出した。
公衆の面前で泣いてしまった恥ずかしさと、これ以上店員さんたちに迷惑をかけられないなという申し訳なさから、私は心の拠り所であったユニクロを卒業することにした。
今までありがとうユニクロ、そしてさようならユニクロ。