婦人公論
  • 最新号
  • アンケート・投稿
  • 定期購読
  • プレゼント
  • 会員登録
  • ログイン
会員限定 ランキング 芸能 読者手記 介護 お金 人間関係 漫画 レシピ 健康 美容 性愛 教養 占い 小説 連載
  • TOP
  • 教養
  • 爪切男『もはや僕は人間じゃない』冒頭を一挙掲載!
2021年03月10日
教養 寄稿

爪切男『もはや僕は人間じゃない』冒頭を一挙掲載!

爪切男 作家
×

会員限定の機能です。
詳細はこちら

印刷
X
Facebook

 

 だが、二〇一一年夏、私はその誓いを破り、また墓地へと戻ってきた。
 子供の頃と同じように、心の寂しさを死者との対話で埋める腹積もりだ。
 アパート近くの墓地を訪れた私は、墓石に刻まれた「名前」と「享年」から、できるだけ若い女性を探しては声をかけていく。「二十三歳で亡くなった樋口茜さん、ちょっとお話をしませんか?」という具合だ。要はナンパである。
 ただナンパをするのもつまらないので、「名前」と「享年」という限られた情報から、その女性を頭の中で想像して楽しむ。
 もし、わがままを言えるなら、ショートカットの幽霊と話がしたい。願いが叶うなら『Only You』を歌っていた頃の内田有紀ぐらいがベストだ。しかし、考えてみるとショートカットの幽霊をあまり見たことがない。世の中には長い髪の毛の幽霊ばかり溢れている。ショートカットだと健康的に見えて幽霊らしくないからダメなんだろうか。
 そんなどうでもいいことを考えているだけで、少しは元気が湧いてきた。この失恋の傷が癒えるまでは、こうしてまた墓地に通い続けるのも悪くない。
「ブブー! ブブー! ブブー!」
 ズボンのポケットの中で、携帯のアラームがやかましく鳴っている。そろそろ職場に向かわないとまずい。私は墓地を飛び出して職場のある渋谷へと急いだ。

 

 

 渋谷の円山町の外れにある趣味の悪い黄土色のビル、その七階にあるWeb制作会社で働き出してもう四年が経つ。
 私の主な仕事は、週に一度配信される、音楽、ファッション、グルメなど渋谷のカルチャーをまとめたメルマガの編集作業と、無料エロ動画サイトの運営業務である。
 彼女にフラれてからというもの、一人の部屋に帰りたくない私は、自分のキャパを超える仕事を抱えることで残業時間を増やし、二日に一度は職場に泊まり込むハードな日々を送っていた。
 誰の目から見ても自暴自棄になっている私を心配した社長に、「社長命令だ。今日は飲みに行くぞ」と夜の街に連れ出されたのは、二〇一一年初秋のことだった。
「失恋した今だからこそ、新しい世界を覗いてみるのもいいんじゃないか」
 そう言って社長が案内してくれたのは、新宿二丁目の雑居ビルにある完全会員制のオカマバーだった。会員制だからといって、同じ性的指向の人しか受け入れないわけではなく、私のようなノンケもOK。性別、年齢、職業、国籍を問わず、みんなが和気藹々と楽しめる「MIXバー」の形式を取っているお店だった。
 黒を基調とした内装の落ち着いた店内に、インドのダンスミュージックが大音量で流れている。それほど広い店ではないが、バーカウンターとソファー席が用意されており、カラオケセットも完備、中央部分には小さなイベントステージも設置されていた。いわゆるショーパブの造りに近い。
 この店の常連である社長の計らいで、一番奥にある豪華なソファー席へと案内される。こういう余計なVIP扱いはなんとも窮屈で仕方がない。
 フカフカのソファーに座らされ、私は大きくため息をひとつ。ようやく気分が落ち着いたところで、改めて店内の様子を観察する。
 バカ殿様のような白塗りメイクに芸者の恰好をしたオカマ、歌手のKATSUMIみたいな鮮やかなソバージュヘアのオカマ、お尻を左右に揺らしモンローウォークを決めるバドガールオカマ、思い思いの女装をした夜の蝶、もしくは蛾が手狭な店内にひしめき合っている。それはまるで趣味の悪いサーカス団御一行様といった光景だった。でも私は不思議とこの景色が嫌じゃない。

 

  • <
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • 6
  • >
×

会員限定の機能です。
詳細はこちら

印刷
X
Facebook
ランキング
  • デイリー
  • ウイークリー
  • 1定年後は<シルバー人材センター>などの窓口で無理のない仕事を見つけるのがオススメ。作家・佐藤優「定年後だからこそ自分の好きな時間に好きな仕事を」
    定年後は<シルバー人材センター>などの窓口で無理のない仕事を見つけるのがオススメ。作家・佐藤優「定年後だからこそ自分の好きな時間に好きな仕事を」
  • 2明日の『風、薫る』あらすじ。直美はりんに<あること>を伝える。家に帰ったりんを待っていたのは…<ネタバレあり>
    明日の『風、薫る』あらすじ。直美はりんに<あること>を伝える。家に帰ったりんを待っていたのは…<ネタバレあり>
  • 3『豊臣兄弟!』小栗旬「信長役を受けたのは仲野太賀くんと池松壮亮くんの存在が大きかった」
    『豊臣兄弟!』小栗旬「信長役を受けたのは仲野太賀くんと池松壮亮くんの存在が大きかった」
  • 4【義姉に反撃!】双子が産まれて強くなった私。ついに「離婚」を突きつけた【第2話まんが】
    【義姉に反撃!】双子が産まれて強くなった私。ついに「離婚」を突きつけた【第2話まんが】
  • 5『風、薫る』次週予告。りんが新潟へ。井上祐貴演じる新聞記者・横沢が初登場。<あの人>が「結婚はできますよね?」と発言して…
    『風、薫る』次週予告。りんが新潟へ。井上祐貴演じる新聞記者・横沢が初登場。<あの人>が「結婚はできますよね?」と発言して…
  • 6宮本浩次さんが『あさイチ』プレミアムトークに登場。生歌唱も「〈立派なオヤジなんだから、休むことも覚えなくちゃ〉と言われ。今後はストイックなだけでなく、緩急をつけて生きていく」
    宮本浩次さんが『あさイチ』プレミアムトークに登場。生歌唱も「〈立派なオヤジなんだから、休むことも覚えなくちゃ〉と言われ。今後はストイックなだけでなく、緩急をつけて生きていく」
  • 7高齢者のひとり暮らしが増えてきた集合住宅で、仲良くなった4階に住む男性。階段の上り下りが大変になり、思いついた「ドローン作戦」とは… 【2026上半期BEST】
    高齢者のひとり暮らしが増えてきた集合住宅で、仲良くなった4階に住む男性。階段の上り下りが大変になり、思いついた「ドローン作戦」とは… 【2026上半期BEST】
  • 8細木かおり「大殺界で結婚した私に母・細木数子が激怒。結果、妊娠と出産で体調を崩し40キロを切り、痛感した」
    細木かおり「大殺界で結婚した私に母・細木数子が激怒。結果、妊娠と出産で体調を崩し40キロを切り、痛感した」
  • 9山川豊「ステージIVのがんを抱えながら、歌手デビュー45周年の舞台へ。熟年離婚した翌年にがんが発覚するなんて…」
    山川豊「ステージIVのがんを抱えながら、歌手デビュー45周年の舞台へ。熟年離婚した翌年にがんが発覚するなんて…」
  • 10【ヨメの私は召使い!?】毎週泊まりに来る義姉一家…農家に嫁いだ私の後悔【第1話まんが】
    【ヨメの私は召使い!?】毎週泊まりに来る義姉一家…農家に嫁いだ私の後悔【第1話まんが】
  • 1『豊臣兄弟!』小栗旬「信長役を受けたのは仲野太賀くんと池松壮亮くんの存在が大きかった」
    『豊臣兄弟!』小栗旬「信長役を受けたのは仲野太賀くんと池松壮亮くんの存在が大きかった」
  • 2『風、薫る』次週予告。「働かなきゃ生きていけない」と訴えるりん。環は「お母さん、看護婦やめちゃうの?」と尋ねて…
    『風、薫る』次週予告。「働かなきゃ生きていけない」と訴えるりん。環は「お母さん、看護婦やめちゃうの?」と尋ねて…
  • 3人形作家・粟辻早重92歳ひとり暮らし「食事は基本、3食自炊。リュックを背負って散歩がてら買い物に。1日に1回リビングの天井のバーにぶら下がる」
    人形作家・粟辻早重92歳ひとり暮らし「食事は基本、3食自炊。リュックを背負って散歩がてら買い物に。1日に1回リビングの天井のバーにぶら下がる」
  • 4家族で夕食中、見知らぬ男性が突然家に入ってきた。男性は「こちらです。どうぞご自由に見てください」と言い…
    家族で夕食中、見知らぬ男性が突然家に入ってきた。男性は「こちらです。どうぞご自由に見てください」と言い…
  • 5明日の『風、薫る』あらすじ。直美はりんに<あること>を伝える。家に帰ったりんを待っていたのは…<ネタバレあり>
    明日の『風、薫る』あらすじ。直美はりんに<あること>を伝える。家に帰ったりんを待っていたのは…<ネタバレあり>
  • 6<だが君は看護婦だ>『風、薫る』古川雄大演じる今井教授の言葉に視聴者共感「あくまで公平」「正論のなかに温情も」
    <だが君は看護婦だ>『風、薫る』古川雄大演じる今井教授の言葉に視聴者共感「あくまで公平」「正論のなかに温情も」
  • 7「もう梅宮アンナじゃない」。抗がん剤の副作用による脱毛で絶望。救いとなった医療用ウィッグとの出会いは…
    「もう梅宮アンナじゃない」。抗がん剤の副作用による脱毛で絶望。救いとなった医療用ウィッグとの出会いは…
  • 8明日の『風、薫る』あらすじ。りんは院長の多田から通常通り勤務するよう命じられるが…<ネタバレあり>
    明日の『風、薫る』あらすじ。りんは院長の多田から通常通り勤務するよう命じられるが…<ネタバレあり>
  • 9山川豊「ステージIVのがんを抱えながら、歌手デビュー45周年の舞台へ。熟年離婚した翌年にがんが発覚するなんて…」
    山川豊「ステージIVのがんを抱えながら、歌手デビュー45周年の舞台へ。熟年離婚した翌年にがんが発覚するなんて…」
  • 10養老孟司のがん治療を支える娘・暁花が語る父への思い。「役立ちたいと見舞いに行っても塩対応。それで心が折れそうになったことも」
    養老孟司のがん治療を支える娘・暁花が語る父への思い。「役立ちたいと見舞いに行っても塩対応。それで心が折れそうになったことも」
もっと見る
MOVIE
ー 婦人公論.jp 公式チャンネル ー

編集部おすすめ
オーバーザサン
最新号 好評発売中!
婦人公論最新号表紙
脳卒中、心不全からつらい冷えまで 健康のカギは血管にあり
最新号 次号予告 バックナンバー
発言小町注目トピ
  • 長男夫婦に近くに住んでほしいです。
  • 男性不妊なのにどうして他人事なのか
  • 夫に私の母の喪主を務めてもらうことについて
中央公論新社の本
三千円の使いかた
三千円の使いかた
原田ひ香 著
詳しくみる

インフォメーション

  • 耳にすっぽり!オーティコン補聴器、新しいスタイルで All in Ear の「オーティコン ジール」を発売
    耳にすっぽり!オーティコン補聴器、新しいスタイルで All in Ear の「オーティコン ジール」を発売
  • 脳の健康習慣をサポートするオープンイヤー型イヤホン「kikippa イヤホン HERALBONY モデル」発売
    脳の健康習慣をサポートするオープンイヤー型イヤホン「kikippa イヤホン HERALBONY モデル」発売
  • 【編集部より】広告ページについてのお詫びと訂正
    【編集部より】広告ページについてのお詫びと訂正
  • あなたのペット自慢を教えてください!
    あなたのペット自慢を教えてください!
  • 【編集部より】公式アドレスの不正利用について
    【編集部より】公式アドレスの不正利用について
インフォメーション一覧
婦人公論
  • 婦人公論とは
  • サイトポリシー/データの収集と利用について
  • 「ff倶楽部」会員規約
  • 「ff倶楽部」よくあるご質問
  • お問い合わせ
  • 広告掲載
婦人公論

CHUOKORON-SHINSHA,INC.All right reserved

ページのトップへ