夫との関係を終わらせるのは簡単

この取材にあたり、12人の妻たちに「子ども以外の夫婦の『かすがい』は、何ですか?」と尋ねてみたところ、最も多かったのは「義理の親の介助&介護」という答えだった。前向きな理由ではないけれど、「弱っている人を残して離婚できない」というのが大方の意見だ。そんななか、「義母が大好きだから、介護がしたいんです」と話すのが、文子さん(59歳、パート、静岡県在住)だ。

「物心ついたときから、身勝手で、『あんたってダメね』と私のことを否定ばかりする母と、反りが合わなかったんです。でも、32年前に夫と結婚し、義母と同居してはじめて、『母親って、一緒にいるだけでこんなに安心できる存在なんだ』と知りました。新米主婦の私が家事で失敗しても、義母は『上出来!』『大丈夫!』と言って励ましてくれて」

一方、夫(60歳、会社員)は「家事、育児は女の仕事」が口癖の、亭主関白。その性格は、会ったことがないが、亡き義父の血筋だと確信している。なぜなら、まだ交際中だった頃に夫から、「親父はおふくろを無能呼ばわりして、顎で使っていた」と聞かされたことがあったからだ。「それに黙って従うおふくろもおふくろ。俺は、ああいう夫婦にはならない。お互いを尊重する関係が理想だ」と言っていたのだという。

「だからこそ結婚したのに、結局、血は争えないというか……。いざ一緒に住んでみたら、亡き義父同様、私を顎で使うばかりだったんです。優しい義母がいなければ、とっくに離婚していたかもしれません」

しかし3年前、義母がくも膜下出血の後遺症で半身まひになってしまう。要介護の身になった義母を、文子さんは献身的に世話した。

「それなのに夫は、実母の介護にも協力しないで、毎日のように午前様。インフルエンザによる高熱が原因で義母の容体が悪化したときも、夫は携帯電話で、『おふくろのことはお前に任せるって、いつも言っているだろう。以上、終了!』って捨て台詞を吐く始末でした」

そのうえ夫は義母に、「死ね!」「くたばれ!」など、まるで思春期の子どものような言葉をぶつけることもしょっちゅう。しかも、こうした言葉を口にするのは、義母が「みんなに迷惑かけてばかりで、ごめんなさい」と涙を浮かべるときなのだという。

「母親の弱さを見るのがつらいのかもしれませんが、あんなひどいことを言うなんて、大の大人としてどうかと思いますよね。もう、夫を人間として好きになれない。いや、心底幻滅してしまいました」

先日、結婚して家を出た息子と妻が家に来たとき、「お母さんを見習って、子どもが望むことを自由に挑戦させてあげられる親になる」と、口をそろえて言ってくれたそうだ。

「その言葉を聞いて、とっても嬉しくてね。でももとを辿れば、思いやりに満ち溢れた『無償の愛』を与えてくれた義母を手本にしたからこそ、私は息子からそんなふうに思ってもらえる母親になれた。子どもも自立しましたし、夫との関係を終わらせることは簡単。でも、義母には最期まで目いっぱいの感謝と愛情を注ぎたい。離婚に踏み切るのなら、義母が亡くなってからと決意しています」

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長年、男と女がひとつ屋根の下に暮らしていれば、一度や二度、関係にヒビが入ることもあるだろう。それを修復できるか、真っ二つに割れてしまうかは、やはりお互いの心をつなぐ架け橋のような存在がカギのようだ。実際に真っ二つに割れ、シングルの道に身を投じた私は、4人の話がひしひしと胸に響いた。