テレビを見るのが楽しくなりました
上野 橋田さんが安楽死について考えるようになったきっかけは?
橋田 仕事が減ったから。仕事がなくなったら、生きていてもしょうがないですよ。
上野 仕事欲も、生きる欲ですよね。
橋田 ところが、その欲が減ってきた。「これを当ててやろう」という気持ちが、今はなくなりました。
上野 このお歳ではもうそんなにギラギラしなくてもいいのでは(笑)? 橋田さんは戦争を経験されて、『おしん』でも戦争について描かれている。戦争中の経験が深く影を落としていると感じます。
橋田 終戦の時ちょうど20歳。青春なんてありませんでした。目の前で友人が機銃掃射で死んだけど、私は死ななかったので、「もうけた命だ」という感覚があります。
上野 命があってよかったと思われました?
橋田 そう思うのは大変でした。でも今になって、「やっぱり死ぬより生きていてよかった。少しは世の中のためになったかな」と。それに何があっても、戦争中に比べればたいしたことない、とも思えます。
上野 だったら、「仕事がなくても、たいしたことない」とはなりませんか? 定年を迎えた後にも生きている方は大勢います。皆さん、別の楽しみを見つけてらっしゃる。
橋田 確かにこの頃、テレビを見るのが楽しくなりました。以前は、テレビを見る暇もなかったんです。
上野 それまでは生産者としてご自分が作りだしてきた世界を、今は消費者として味わっておられる。長生きしてよかったじゃないですか。
橋田 そうですね。それを知らないで死んだら、ちょっとつまらない。でも病気になって脚が動かなくなり、人の世話にならなくてはいけなくなったら、やっぱり生きていたくない。