「お話を伺っていると、橋田さんはよく死にたいというより、よく生きたいと考えていらっしゃると感じました。」

 

上野 介護保険の保険料も払っておられるんだし、これまで払った税金の額を考えれば、介護保険を上限まで使っても、もとがとれないぐらいでしょう。

橋田 体を触られること自体がイヤなの。とにかく、誰かのお世話になるなんて……。

上野 でもお手伝いさんには来てもらっているのでしょう?

橋田 そうね。(笑)

 

「よく生きる」とはどういうことか

上野 認知症になったら死なせてほしい、とも書かれていましたね。

橋田 認知症が一番怖い。幸い先日の人間ドックでは、脳はまだ大丈夫ということでした。耳もまだ、補聴器を使っておりません。

上野 悪口がよく聞こえる。(笑)

橋田 認知症になっても、楽しいと感じるのでしょうか。

上野 認知症の方も食事をおいしそうに召し上がるし、お風呂に入れてもらうと、「気持ちいい」とおっしゃる。海や空を見て「あぁ、美しいなぁ」と、日日機嫌よく過ごされる方もいます。

橋田 そういう方は私みたいにひとりぼっちではなく、きっと、会いに来てくれる肉親がいるんでしょう?

上野 そうとも限りません。いろいろです。私は大勢のお年寄りを見てきました。皆さん、ゆっくり下り坂を降りていくのを見て、「あぁ、人はこうやって老いて、こうやって死んでいくんだな」と思います。お話を伺っていると、橋田さんはよく死にたいというより、よく生きたいと考えていらっしゃると感じました。

橋田 その通りです。よく生きたいし、よく生きられなくなったらサヨナラしたい。人のお世話になるのは、今の私には「よく生きている」と、思えないわけです。でも、この先どうなるかはわかりません。人の気持ちは変わりますから。

上野 それを伺って、私は今日、来た甲斐がありました。安心しましたよ。ということは、私はこれから橋田さんの最期まで、じっと見ていなくてはいけませんね。

橋田 うまく死ねるかどうかはわからない。上野さん、見届けてね。

上野 はい、ぜひそうさせてください。