「この2行、あそこの2行とフレーズを湯船の中とかで考えておいて、パソコンを開いたら2時間くらいで書き上げます」(鈴木さん)

エモーショナルかつロジカルに

鈴木 他にもニコちゃんマークとか怒りのマーク、クエスチョンマークといった記号も「このセリフのときはこの感じ」と道しるべのように台本に書き込んでいきます。それをベースにすると、「もうちょっとニコちゃん強め」「怒り弱め」と演技のプランも立てやすいことを発見したんです。

三浦 演技の場合、相手の方の解釈もありますよね。あらかじめ言語化しておくと、「この人はこう来たか、じゃあニコちゃんマークをこうしよう」と調整しやすくなるのでしょうか。

鈴木 だと思います。

三浦 エッセイにお芝居の準備で京都弁や乗馬を習うお話がありましたが、身体面でも役の人物を身に沁み込ませ、憑依させるんですね。同時に「この人物ならこう感じて、こう動く」とある程度ロジカルに分析することで、架空の人物が本当に生きているかのように思わせてくれる。それは、小説を書くこととも似ていると思います。

鈴木 そうなんですか。

三浦 たとえば私は『舟を編む』という小説のため実際に辞書づくりの現場を取材して、登場人物の日常を味わおうとする一方で、「この場合はこういう展開にしたほうがいい」と理性で物語を動かす部分もある。そのバランスを鈴木さんの文章にも感じました。感情や体験を出力するときの思考回路が、非常にロジカルなのだと思います。

鈴木 それでいうなら、私が三浦さんの作品を好きなのもロジックがしっかりとあるからなんですよ。自分のなかにあるモヤモヤした気持ちを、みんなが使う平易な言葉でとても的確に解明してくれる気がして。『舟を編む』でも、ある言葉を辞書に採用するかしないかを、「なぜならば」というところまで誰もが納得できるように表現するのは、すごい技だなあと。